クリスマスおさきじ

クリスマスの夜、刑部さんにご飯を誘われた貴島さん。
ご飯を食べながら、新しい職場はどうだのあそこの店の限定メニューがどうだの、色々な話をした。

「あ!そうそう、これ差し上げますね」
そう言うと刑部さんは小さな紙袋を手渡してきた。
「メリークリスマスです!どうぞ!」
「えっちょっ…私何も用意して無いんだけど⁉︎」
「良いんですよ。……ただ私があげたかっただけなので」
「そ、そう。ありがとう…」

包みを開けてみると、中身は淡いピンク色のマニキュアだった。

「これ…」
「新しい楽しみができたらいいなぁって思ったんです」


看護学校の時から、ずっと短く切り揃えていた爪。だからネイルなんて、一度もやったことは無かった。

そうか、私もう切らなくてもいいんだ。そう思ってしまうと、なんだか今さらだけど少し寂しかった。

でも、せっかく貰った物だし。そう思って試しに着けてみることにした。慣れない手つきで慎重に爪に塗り進めていく。
白い指先に淡くて優しいピンク色が乗り、一段と華やかになった。

「……かわいい」
「やっぱり!きっと似合うと思ったんですよ!
……とても素敵ですよ、貴島さん」
「ありがとう…刑部さん」

自然と表情が緩んでしまったみたい。刑部さんも、そんな私を見てにこにこ笑っている。


私、失ってばかりだと思ってた。
恋人も、同僚も、専門学校に入ってまで就いた仕事も。

全部失って、手に入れたのは孤独と罪の意識だけ。そう思っていた。
でも、それだけじゃなかったみたい。

今の私にしかできないことがあったんだって気付いた。それが堪らなく嬉しくて、嬉しくて、だから柄にもなくこんなに笑ってしまうのかもしれない。

「ありがとう刑部さん。…これ、とても好きよ」
「よかったです、喜んでもらえて」
刑部さんは少しだけ身を乗り出して、真っ直ぐ私を見つめる。
「貴島さん、これからたっっくさん素敵なことを見つけてください。私がお手伝いしますので!」無邪気なその言葉を素直に嬉しく思った。

そうだ。失ってばかりなんかじゃない。
私はこれから何だってできる。

それに
どうやら孤独でもないみたいだ。

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