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【妄想小説】春様の召使い 1話

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〜1月27日 00:00


1-1. きっかけ(10号)

「はい!春様!」
これが私に許された返事だ。

春様は私のクラスメイトで、私にとっては神様のような、絶対的な存在。
一方、春様にとって私はただの召使い。

春様とは高校1年生で同じクラスになった。
出席番号が隣で、通学の電車が同じだった私たちはすぐに仲良くなった。
でもそれは入学当初だけの関係性だった。

私は本来春様と仲良くしてもらえるような立場にいない。
春様は芸能人みたいに可愛いお顔立ちで、誰からも好かれ、常に輪の中心にいるタイプ。輝かしい人生が約束されているお方。
かたや私はどこにでもいる一般庶民。ブサイクではないと思うけど、決して可愛くもない。きっと平凡な人生を送っていく人間。

そんな私が春様と高校入学して最初の短い期間だけでも仲良くしてもらえたのは、神様が私に与えてくれた人生のボーナスタイムだったんだと思う。
次第に春様は他の華やかな子たちとよく関わるようになり、一方私は同じ美術部の分相応な友人たちと仲良く過ごすようになった。

それからしばらくは春様のことは見ているだけで、憧れの存在だった。
電車ではあえて春様と同じ車両に乗って春様を鑑賞し、教室でも常に黒板ではなく春様を眺めていた。

1年生の5月末。
春様が日直だったある日、春様は放課後に日誌を書き終え職員室へ提出しに行こうとしていた。そんなときに春様のお友達が教室に入ってきた。

「春帰ろー。」
【ちょっと待ってて。だるいけどコレ出さなきゃ】

一瞬だけ春様と目が合った。というよりも私はずっと春様を眺めているので、一瞬だけ春様が私の方に目線をくれたという方が正しい。
その瞬間、私は勇気を振り絞った。

「春ちゃん、良かったら私それ提出しておくよ?」
【え、田口さん。なんで?】

入学当初は「早紀ちゃん」と呼んでくれていたのに、呼び方が「田口さん」に降格していたことはショックだった。
けれど春様と久しぶりに会話ができたことだけで、私はすごく嬉しかった。

「あ、あの。春ちゃん予定があるみたいだし。私は暇だから。」
【ふーん。良いの?じゃ、ありがと!】

春様は当初驚いた様子だったが、すぐに笑顔になり日誌を私に渡して、お友達と帰っていった。

その日を境に春様と目が合うことが増えた。
たとえば春様が忘れ物をしたとき、喉が渇いたとき、移動教室のとき。
春様がお友達と会話をしている中で、ふと目が合う。

【うわ、今日英語の教科書忘れちゃった】
【なんか喉乾いたなー】
【実験室遠いからこれ持ってくのだる】

こういった発言の後で春様は一瞬だけ私に目線をくれる。私はその都度声をかけた。
最初の数回は勇気を振り絞っていたが、次第に慣れていった。

私は当然のように、春様が忘れ物をすれば自分の物を差し出して自分は他のクラスの友達に借りへ行き、春様の喉が乾けば自販機へ行って飲み物を買い、移動教室の際には毎回春様の荷物を運んだ。
最初の頃は春様のお友達たちが私を馬鹿にして笑っていたけど、次第に当たり前のこととなり誰も気に留めなくなった。他のクラスメイトたちは最初から馬鹿になどせず、むしろ春様と関われることを羨んでいた。

「早紀ちゃんって田中さんに話してもらえるのすごいよね!めっちゃ羨ましい!」
「私も早紀ちゃんみたく、田中さんに色々奉仕したいよー。」

春様は可愛すぎて、学校の中でほとんど芸能人のような扱いを受けていた。
そんな春様に、使いっパシリのような形でも関われることは私の自慢だった。

私は通学の電車でも同じような形で春様と関われるようになり、とても嬉しかった。
けれど春様は夏休みの少し前頃から電車通学じゃなくなってしまったので、残念だった。
どうやら親御さんか誰かが毎日送り迎えをしてくれるようになったらしい。
春様のことだから、メイドさんや召使いのような人がいるのかもしれない。春様の運転手になれるなんて羨ましい。
春様がいなくなった電車は、とても退屈でつまらなかった。

1-2. ファンクラブから召使いへ(10号)

その後、春様のファンクラブが作られたのは1年生の2学期が始まってすぐだった。
美術部の友達が言い出しっぺで、私も誘われて加入した。私を含めて4人。
ファンクラブといっても、ただ集まってお菓子を食べながら春様の可愛さを語り合うだけのものだった。
そんな中、ファンクラブをつくった友達が春様の公認をもらいたいと言い出した。そこで私が矢面に立たされた。
ファンクラブのメンバーの中では、使いっパシリとはいえ春様と1番関われていたのは私だったからだ。

「春ちゃん、今いい?」
【ん、なに田口さん?今は特に用ないけど】

それまで私が話しかける時は雑用を申し出る時だけだったので、春様は不思議そうな顔をした。

「実は最近、春ちゃんのファンクラブをつくって活動してるんだけど。」
【春の?ウケる、そうなんだ。活動って?】
「たまに皆で集まって春ちゃんの魅力を語り合ってる感じ。」
【ふーん、照れるな。今度春もそれ参加したいかも】
「え、そしたら活動するときに呼んでも良い?」
【うん、よろしく】

勇気を振り絞って話しかけたところ、春様は嫌な感じではなく、むしろ乗り気になってくれた。
早速メンバーにそのことを話し、皆ですごく喜んだ。

私たちはすぐに次の集まりを企画して、春様を招待した。
いつも使ってる空き教室で、いつもよりも豪華なお菓子とジュースを用意した。
机を4つ合わせてテーブルにして私たちはいつもの普通の椅子。春様には他の教室から先生用の少し良い椅子を用意して、そこに私たちが今日のためにお金を持ち寄って買ったふかふかの座布団を敷いた。

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