前川のおばあちゃん
前川のおばあちゃん
2011年04月14日22:01
前川のおばあちゃんは、主人の母の母、つまり、私のこどものひいおばあちゃんだ。今は、もういない。新玉葱の出回るこの時期になると思い出す。二人目を出産したあと、腰を痛めて、どうしようもなくて、実家に帰って世話になろうかと思ったが、私の父と、主人が折り合いが悪くて、私を実家に帰すのが嫌だった。それで一ヶ月ほど、札幌の主人の実家にお世話になった。
ひいおばあちゃんは、すごく子煩悩で、お母さんのことが心配で仕方ない。だから、お母さんのこどもや旦那さん(つまり、主人の姉や妹、お父さん)が、お母さんに面倒をかけたり、甘えたりするのが気になって気になって、つい口うるさくなって、みんなに嫌われていた。お母さんはお母さんで、実の娘だから、反抗する気持ちもまだあって、おばあちゃんがみんなに嫌われるのを喜んでいる風があった。そんな人間関係の中に放り込まれて、どうなることかと思ったけれど、おばあちゃんは、私に優しかった。私が、大家族の中で育ったせいかもしれないし、おばあちゃんが、お母さんのことを思って、いい家族だと私に思わせたかったからかもしれない。
とにかく、その一ヶ月の間に、おばあちゃんからも、お母さんからも、イロイロな料理を教わった。
そのひとつが、新玉葱のケチャップ合え。
新玉葱を薄ギリにして、水に晒さず、そのままケチャップで合える。
30分ほどで食べられるけれど、一晩寝かせるともっと美味しい。茹でた豚の薄切り肉と一緒に食べる。新玉葱の甘さが際立つ。
大根と手羽元のコンソメ煮
水の中に、コンソメキューブを放り込んで火にかけて、まだ水のうちに、鳥手羽元を人数分入れ、乱切りの大根、干し椎茸、人参、ちぎったこんにゃくと順番に入れて、煮たってきたら砂糖を入れて、20分くらい煮る。大根が煮えてきたら、さらに醤油と酒を入れてさらに10分くらい煮たら、出来上がり。鰹だしとはまた違って、優しい味に出来る。
あぶらこの煮付け。これは、北海道でしか食べられないお魚。お砂糖と同量のお醤油お酒をひと煮たちさせたところに切り身を入れる。蓋をして10分くらい煮たら出来上がり。ホックリして美味しい。
ホッケの味噌漬けも北海道ならでは。関東では生ホッケが手に入らないから。味噌と同量の味醂または酒で溶いて、生のホッケの切り身に塗って一晩寝かせる。味噌を取ってから、焼いて食べる。脂ののった魚なら、何にでも応用できる。
イカとジャガ芋の煮付け。肉じゃがの肉がイカになった感じ。煮汁を煮立ててから、イカを入れれば、生臭くならない。イカに火が通ったら、いったん取り出して、残った煮汁に少し湯を足して、ジャガ芋が柔らかくなるまで煮て、最後にイカを戻して、青みを散らす。関東だったら、里芋を使うところで、ジャガ芋を使っちゃう。
三平汁は最初は鰊だったとか。今は、鮭のアラを使うことが多い。ジャガ芋が、合う。
それから、必ず、夕食には、酢の物を作ってたな。酢を合わせた後に、必ず煮立てて酢をとばし、水で倍に薄めるから、マイルドで、子供達も喜んで食べた。この頃、私は、お多福の千枚漬けの素か、らっきょづけの素を使っちゃう。おばあちゃんの味に似て、甘くて美味しいから。
おばあちゃんの黒豆も美味しい。お正月に食べるやつ。一晩、水に付けた黒豆をストーブの上でコトコト煮る。最後に乾燥したままの昆布を焼いて、入れると、昆布が何故かとろとろに熔けて美味しいの。
お昼に、おばあちゃんとお留守番をしていると、いろんな話をしてくれた。おじいちゃんのこと。おじいちゃんには決して隠し事をしなかったこと。死んでしまった息子のこと。行方不明の息子のこと。娘と暮らせて幸せだと思っていること。小さな頃、トイレ掃除をさせられたこと。妹は、させられなくて、自分は母親に嫌われているのかなーと思ったとか、学校から帰って勉強させられたこと、友達が遊びにきても勝手に断られちゃったこと。雲丹を一斗缶いっぱい持ってくる大ぼら吹きのおじさんの話。お母さんの小さな頃の話。いつものおんなじ話を三回繰り返した後に出てくる新しくて古い話が、面白くてせつなくて、小説を読んでいるみたいだった。相模原に帰る時、ひいおばあちゃんの話は、誰が聞いてあげるのかなーと心配だった。
お母さんは、今、おばあちゃんが、作っていた料理でこども達には、あまり食べさせなかったものを作ってみたりしているらしい。それを私に教えてくれると言っている。教えてもらわなくちゃね。