PGT-Aって、結局どうなの!?~第3回~
本シリーズ第3回。読者の皆様、ありがとうございます。はらメディカルクリニック院長の宮﨑です。
本シリーズは、PGT-Aはメリットとデメリットが複雑に絡み合っており、どの患者様にとって有益なのかを把握するのは容易ではないという思いから書き始めました。
第1回では、PGT-Aの適応とPGT-Aの有効性についてお伝えしました。
第2回では、PGT-Aが有効とする35歳以上について具体的に検討しました。
第3回となる今回は、35歳未満の若年女性のPGT-Aについて考えます。
若年女性へのPGT-A
PGT-Aの有効性は、35歳未満の若年女性に関してはどうでしょう?
若ければ若いほど有効性があるかというと、答えはもちろん「ノー」です。これも文献をもとに考察してみます。
1. 35歳未満の考察
文献1: Munné, S., Chen, S., Colls, P., Garrisi, J., Zheng, X., Cekleniak, N., ... & Cohen, J. (2007). Maternal age, morphology, development and chromosome abnormalities in over 6000 cleavage-stage embryos. Reproductive Biomedicine Online, 14(5), 628-634.
概要: 若年女性の胚における染色体異常の発生率に関する研究。
考察: 35歳未満の女性では、染色体異常の発生率が低いため、PGT-Aの有効性が限定的であることが示されています。若年女性の胚は比較的良好であり、自然妊娠や通常のIVFでも高い妊娠率を達成することが多いためです。
文献2: Gleicher, N., Weghofer, A., & Barad, D. H. (2010). A case-control study evaluating whether preimplantation genetic screening (PGS) improves live birth rates in women with good prognosis. Reproductive Biology and Endocrinology, 8(1), 67.
概要: 良好な予後を持つ女性におけるPGT-Aの有効性を評価したケースコントロール研究。
考察: 良好な予後を持つ女性、特に35歳未満の若年女性においては、PGT-Aの有効性が限定的であることが示されています。これらの女性はもともと高い妊娠率を持っているため、PGT-Aによる追加の選別が必ずしも必要ではありません。
2. 反復流産や反復着床不全の既往がある若年女性の考察
文献3: Scott, R. T., Upham, K. M., Forman, E. J., Hong, K. H., Scott, K. L., Taylor, D., & Treff, N. R. (2013). Blastocyst biopsy with comprehensive chromosome screening and fresh embryo transfer significantly increases in vitro fertilization implantation and delivery rates: a randomized controlled trial. Fertility and Sterility, 100(3), 697-703.
概要: 胚盤胞の生検と包括的染色体スクリーニングが妊娠率に与える影響を評価したランダム化比較試験。
考察: 若年女性においても、特定の状況下ではPGT-Aが有益である可能性が示されています。例えば、繰り返す流産や着床不全を経験する若年女性では、PGT-Aが正常な胚を選別するのに役立ち、妊娠率を向上させることがあります。
3. 若年女性に対するPGT-Aの経済的および心理的側面の考察
文献4: Harper, J. C., Coonen, E., Handyside, A. H., Mariani, B., Hoebeke, L., Franz, R., ... & Geraedts, J. P. (2010). The future of preimplantation genetic screening: technical advances, obstacles to widespread clinical application, and ethical considerations. Reproductive Biomedicine Online, 21(5), 665-675.
概要: PGT-Aの将来、技術的進歩、臨床応用の障壁、倫理的考慮についてのレビュー。
考察: PGT-Aは高額な技術であり、特に染色体異常のリスクが低い若年女性にとって、その費用対効果は低い可能性があります。また、PGT-Aの実施が不要なストレスや不安を引き起こすこともあり、心理的な側面も考慮する必要があります。
若年女性へのPGT-Aのまとめ
A. 35歳未満の有効性
有効性の低下: 35歳未満の女性では、染色体異常の発生率が低いため、PGT-Aの有効性が限定的です。自然妊娠や標準的なIVFでも高い妊娠率が期待できます。
B. 反復流産や反復着床不全の既往がある若年女性
有効な可能性: 反復流産や反復着床不全の既往がある若年女性においては、PGT-Aが有益である可能性があります。
C. 経済的および心理的側面
費用対効果: PGT-Aは高額であり、特にリスクが低い若年女性にとっては費用対効果が低い可能性があります。心理的な負担も考慮する必要があります。
PGT-Aは、特に35歳未満の若年女性においてそのメリットが低下することが示されています。この年齢層では、自然妊娠や通常のIVFでも高い妊娠率が期待できるため、PGT-Aの必要性が低いです。しかし、反復流産や反復着床不全の既往のある若年女性の場合には、PGT-Aが有益である可能性もあります。PGT-Aの使用を決定する際には、個々の患者のリスクと利益を慎重に評価することが重要です。
デメリットや注意点って何?
そもそも、PGT-Aのデメリットや注意点とは、何でしょうか?
これを理解すると、なぜPGT-Aが万人にお勧めできる検査ではないのか納得できると思います。
続きは、次回の~第4回~へ続きます。