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大仏開眼への道3~怪物の出現

がんサバイバーが次々と出現する眼の疾患と闘う記録。基礎疾患に1型糖尿病を抱える。

眼科のN医師は検査機器のレンズを覗き込むと何度も首を傾げて「おかしいな」とつぶやきました。白内障の手術が成功したはずの左目に何か異常があるようです。
点滴で造影剤を打って詳しく調べると
「え、これ血管?だよな?表面に出てきてる!こんなの見た事ない…」
本来は網膜の内部に走っているはずの血管が表層に出て隆起しているというのです。
しかもそれは出来たばかりの新生血管、私の目の中でまるでシン・ゴジラのように誕生した怪物でした。
糖尿病網膜症の場合、血管の血流が悪くなっているのを補うために新しい血管が生えてくることがあるそうです。
そういえば、数日前から眼の中がゴロゴロするような違和感があって、視界の端に赤黒い影が見え隠れしていたのです。
その正体が新生血管の怪物だったとは。
このまま放置すれば視力の妨げになるだけでなく、弱くて切れやすいというので、週明けにレーザーで焼き切る手術をすることになりました。
しかし、その診察のわずか四日後にまたもや緊急事態が発生しました。

5月1日(土)
大型連休中でコロナ禍ということもあって都心のオフィスビル街は人の姿もまばらです。私は会社で休職中にたまった事務処理作業をしていると、左目の中でモワモワとコップの水に黒いインクを垂らしたような液体がゆっくり広がり始めました。
私の目の中で「ウルトラQ」が起きている!(ウルトラQは円谷プロの宇宙怪獣シリーズでオープニングの色が混ざり合う映像がまさにこのイメージ )
慌ててパソコンをシャットダウンして、病院に電話をかけながら駅に向かいました。
「目の中で出血して、どんどん濁って見えなくなってきて、今から診てもらえますか」
看護師はすぐ来て下さいね、気をつけてと心強い返事をくれました。しかし電車に揺られて病院に向かっている間も左目の中の「ウルトラQ」状態はひどくなる一方です。
電車を降りた時には左目は濁った沼の底に潜っているようで視界はZERO。
赤色のドロッと粘り気のある物体が糸を引いて藻のようにゆらゆら揺れ動いて見えます。
右目は普通に見えているものの、白内障手術のトラブルで眼底出血した部分が完全には回復していないので、右目だけでは不安です。

病院に到着すると、N医師がすぐに来てくれました。眼の中を覗くと。
「ああ新生血管が破れたんですね、予想より進行が速い、すべてにおいて進行が早い」
うぬぬっ、N医師さ、それは進行が早いんじゃなくて判断が後手後手なんじゃないの?
新生血管はレーザー手術で焼き切る作戦だったのに、その前に破れて私の眼の中が血沼じゃないの。さあどうする?
「きょうは眼球注射を打つしか策は無いんですよ。来週までに落ち着くと思うので、そしたらレーザー光を打って処置しましょう」
姿を変えた血管の怪物はレーザー光線で倒すしかない。それまでの一週間は眼の中が血と血管の切れ端で汚濁したままじっと我慢して過ごすしかないのです。

予想を超える病状進行の早さは、抗がん剤の副作用やⅠ型糖尿病の合併症によって起きた多重衝突事故なのです。
決してN医師のせいではない…。

新生血管の破裂から一夜明け、眼の中の汚濁した沼の底のような状態は少しだけ落ち着いて、ぼんやりと見えるようになってきた気がします。しかしそれ以上の好転はしないままレーザー手術の日を待ち続けました。
きれいな眼球を守るため
がんばれ眼球防衛隊・N医師!
がんばれワタシ。
戦いはまだまだ続くのです。
~つづく~

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