ユリゲラーと過ごした3週間。私は彼の最大の秘密を知ってしまった。
今から10年前、イタリアの番組に呼ばれた。
ローマ郊外のスタジオにて3週間マジックコンテスト特番の撮影。 世界中から集められた40組のマジシャン達。
その審査員のなかに一際オーラを放つ男がいた。
そう彼の名はユリゲラー。日本で超能力ブームを巻き起こしたスーパースター。お茶の間を驚嘆の渦に巻き込んだ。20年近くたった今でもスタイルがよくモデルのようなオーラを放っていた。
出会いは突然に
スタジオは遊園地の一角に作られている。出演者もスタッフもみんなが食事をする場所は仮設の小さな食堂だった。
まだ時差ぼけも治らない状態で、リハ終わりに食堂で硬くなったパスタを食べていた。すると目の前にユリゲラーが現れた。
「ここ座っていいかい?」
まじかよ、嬉しいけど緊張するな。。なんで僕の前に座るんだ。。
「オ、オーケー!」 と僕。
「君は日本から来たのか?日本は素晴らしい国だ。さっきちょっとリハを見たけど君も素晴らしいよ!」と矢継ぎ早に褒めてくれた。
「あらやだ。嬉しい。。。」
「隣にいるのはお母さん?お母さんも素晴らしい。君の息子は最高だ」とまた褒めてくれる。
このとき気付いたのが、ユリさんは両手を激しく動かしながら母を褒めていた。アニマル濱口さんの「気合いだ!気合だー!気合いだーっ!」を想像してほしい。
あの動きと熱量とともに、ポジティブな激励の言葉を打ち込んでくる。
一緒に写真を撮った僕と母は一瞬でユリゲラーのファンになってしまった。
次の日から番組に出ることよりも、ユリさんが気になってしまった。この人は何者なのか、ひょっとしたら本当に超能力者かもしれないぞ。観察してみよう。
僕のミッションはコンテストで勝つことではなく、ユリさんの観察、研究に変わった。
観察2日目
次の日もランチのとき、ユリさんは食堂に現れた。 今日は他のマジシャンの前の席に着席。
パスタを食べながら、遠目にユリさんの様子を見ていた。
すると、またあのアニマル濱口スタイルで「you are amazing 君は素晴らしい!you are star !君はスターだ!」と激励していた。
なんや僕だけじゃなかったのか。。と一瞬凹んだが、激励されたマジシャンの人は涙を流して喜んでいた。
すげえ。ユリさん。。。
わずか10秒ぐらいで目の前の人を激励して相手をメロメロにしている。
また翌日も観察を続けてみた。
愛は平等に
観察3日目。いつもの食堂にユリさんの姿はなかった。
スタジオのバックヤードを間仕切りで囲ったマジシャン達の楽屋スペースがある。そこでユリさんを見つけた。
今日は掃除のおばちゃんと話していた。
すると、またあのアニマル濱口スタイルでおばちゃんを激励していた。
「あなたの掃除は素晴らしい!あなたのおかげで僕は今日も快適に過ごせる!ありがとう!」
おばちゃんは満面の笑顔で嬉しそうにユリさんの手を握っていた。
そう、もう気づいた方もいるかもしれない。
ユリさんは出会った全ての人に対してこの激励を行っていた。プロデューサーだろうが、スタッフだろうが、共演者も、掃除のおばちゃんも、レストランのバイトの青年にも。
番組制作が終わる3週間後にはその場にいた人全員がユリさんのファンになっていた。最後の日にはユリさんの楽屋の前に別れの挨拶をしようときた人で長い列ができていた。あの掃除のおばちゃんも嬉しそうに写真を撮っていた。
日本に帰国して1週間ほどたったころ、英文のメールが届いた。
開いてみるとユリさんからだった。一緒に撮った写真とともに、"君は素晴らしい、いつも応援してるよ" とメッセージが添えられていた。
あとがき
もう10年も前のことだけどイタリアでのユリさんの姿、激励されて涙する人々が鮮明に記憶に残っている。
数年前、たまたま香港でユリさんの友人と飲む機会があり、このエピソードを話した。すると「ああーユリはいつもそうだよ。目の前にいる人を世界で一番大切な人だと思って接することがモットーなんだよ」と教えてくれた。
なるほど!!!。だから誰も気にかけていない掃除のおばちゃんにも、バスの運転手にも激励や感謝の言葉を述べていたのか。
イタリアでユリさんと3週間共に過ごして、彼が本当にサイキック、超能力者なのかはわからなかった。
でも出会ったすべての人を激励して相手を元気にするという「超能力」の持ち主であるということは間違いない。