アフリカ医療機関のICT化を促すケニア発スタートアップ「イララヘルス」とは
ICT化は情報への迅速なアクセスと共有を可能としビジネスプロセスの効率化を実現してきました。ケニアにはそんなICTを活用し、少しでも多くの人に質の良い医療を受けてもらおうと活躍する「イララヘルス」という企業があります。今回は同社の特徴や設立背景等について紹介し、アフリカ医療機関のICT化の今を考察します。
イララヘルスとは
イララヘルス(Ilara Health)は2019年に設立されたケニアの首都ナイロビにある会社であり、サハラ以南のアフリカにおける医療の質を向上させるため尽力しています。
この会社では、人工知能(AI)を搭載した低価格の診断機器を、都市周辺部や地方の診療所のプライマリ・ケアの医師たちに販売しています。
この診断機器は、イララヘルス社独自の電子カルテ(EMR)システムと連携しており、医師は患者さんのデータを診断後に管理できるようになっています。
このイララヘルスのシステムのおかげで、より多くの患者さんが診断を受けられるようになり、医療機関へアクセスしやすくなることができます。
また、イララヘルスのポリシーは、持続可能な開発目標3(SDG3)である「あらゆる年齢層のすべての人々の健康的な生活を確保し、幸福を促進する」に沿って、アフリカ全域でより良い健康を提供することであり、質の良い医療サービスを一般の市民でも利用しやすい価格で提供できるように努めている会社です。
※参照URL:Kenya: How is Ilara Health Improving Availability and Affordability of Diagnostic Devices?
※参照URL:About Us - Ilara Health
設立背景
イララヘルスは「早期発見と予防医療が誰にでも利用できる世界」を目指し、会社を設立しています。
創設者兼CEOのエミリアン・ポパ氏によると「ケニアには多くの才能があり、技術革新のチャンスもある。ケニア全土にコミュニティ・ナースがたくさんいるため、ケアへのアクセスは問題ない。しかし、彼らは限られた問題を抱えており、主に感染症に重点を置いているため、深刻な疾患が診断されないままになっている」という問題点を指摘しています。
また、アフリカ大陸の多くの医師はクリニックで診断を行う能力が限られているため、患者さんが検査を必要とする場合、医師はしばしば検査機関を紹介しなくてはいけならず、インフラの問題やどこに行くにも時間やお金がかかることを考えると、患者さんはしばしば検査に参加できず、ケアは崩壊してしまういうという問題も頻繁に起こっています。
イララヘルスでは、上記のような問題を解決し、患者さんたちや医師たちの両方が、少しでも多くの必要な診断や検査が行えるように、新たな診断や処方箋をデジタルツール1つで管理できるようにして、コスパだけでなく医療サービスの普及にも取り組んでいます。
※参照URL:Ilara Health and Affordability and Accessibility of Diagnostic Devices in Kenya — Faces of digital health
※参照URL:Kenya-based diagnostics startup Ilara Health raises $735k - Ventureburn
事業概要と運営状況
イララヘルスのHPの情報によると、以下のような会社概要になっています。
設立年:2019年
総資金調達額:560万ドル
2019年にスタートしたイララヘルスは、バタフライネットワーク社と連携したバタフライiQという独自のアプリを搭載させた診断機器をケニアの医師たちに販売しています。
バタフライ・ネットワーク社とは、2020年2月に設立された米国の医療テクノロジー会社であり、医療画像の普及を目指し、超音波システムの開発に従事しており、アメリカ国内および国際的に超音波イメージングソリューションを開発、製造、および商品化に取り組んでいます。
このバタフライiQアプリは、行きたくても病院へ行けない人たちや、医療サービスが乏しい地域の人たちに、検査機器の貸し付けや患者のデータベースを集積するためのソフトウェアを提供しています。
最近では、新型コロナウィルス対策に力を入れており、提供する新サービスには、問診するためのチャットボットやデジタル症状チェッカー、各診療所に向けたトリアージツール(患者さんの重症度に応じ、治療の優先度を決定して選別を行うこと)なども販売するようになっています。
また、これらの事業展開により、イララヘルスへの投資は世界中から増えつつあり、今後もその活躍が期待されています。
※参照URL:Ilara Health Company Profile: Valuation, Funding & Investors | PitchBook
※参照URL:ナイロビ発のヘルスケアスタートアップ『Ilala Health(イララヘルス)』が新型コロナウイルスと闘う - ANZA -日本企業のアフリカでの「始める」を応援します-
資金調達額
イララヘルスでは過去4回で総額560万ドルの資金を調達しています。資金調達の内訳は次のようになります。
1回目の資金調達はMusha Ventures、Perivoli Innovations、Creative Destruction Lab、LoftyInc Capital Managementから調達
2回目の資金調達はVillgro Kenya、Shaka Venturesから2019年8月7日に74万ドル
3回目の資金調達はBill Gates and Merinda Fundationから2020年10月20日に110万ドル
4回目の資金調達は2020年12月15日のTLcom Capital Partners、DOB Equity、Global Ventures、Chandaria Capitalから380万ドル
また、最近もUntapped Globalという米国資本の会社から2023年8月に資金提供を受けています。このように、イララヘルスは今や全世界中から注目されている企業に成長しています。
※参照URL:Ilara Health Company Profile: Valuation, Funding & Investors | PitchBook
※参照URL:Ilara Health company information, funding & investors | Dealroom.co
※参照URL:Ilara Health - Funding, Financials, Valuation & Investors
サービスの特徴
イララヘルス(Ilara Health)は安全なデジタル・プラットフォーム(ウェブ/モバイル・アプリ)の普及に取り組み、バタフライネットワーク社が作っているバタフライiQなどのデバイスを活用し、サハラ以南のアフリカにおける医療状況を打破しようとしています。
バタフライネットワークのような企業との提携や分散型流通モデルを通じ、バタフライiQのような新しく製造された携帯型デジタルツールを使用することにより、低所得層の利用者の方々にも医療サービスが届くようにしたのがイララヘルスの大きな特徴の1つです。
また、アプリだけでなく、これらの基本的な救命ツールを利用できないサハラ以南のアフリカの都市周辺部の小規模医療提供者に、診断支援と必要不可欠な検査などのサービスも提供しています。
そのほか、柔軟な資金調達(pay as you go)を提供することにより、低資源環境の医療提供者がこの技術を手頃な価格で利用できるようにしています。
例えば、症状チェックのための「COVID-19準備パッケージ」は、重篤なCOVID-19合併症に最もかかりやすい患者を特定するのに役立ち、プライマリ・ケアレベルでの患者のトリアージにおいて現在では重要な役割を果たすようになっています。
※参照URL:https://creativedestructionlab.com/companies/ilara-health/
※参照URL:Ilara Health | Butterfly Network
まとめ
イララヘルスは、ケニアを拠点とするオンラインプライマリケアの会社です。この会社は、Maydawaと同じように独自のデジタルプラットフォームを活用して、医療従事者ネットワークを利用者に提供し、医療ケアへのアクセスの改善や医療サービスの普及に貢献しているICT化を上手く融合させた会社です。
まず、イララヘルスでは、アプリを通じて医療ネットワークからナースや医師などの医療従事者ネットワークと繋がっています。そこから空きのある医療従事者に診断を依頼でき、必要に応じて検査なども行うことが可能です。
また、診断や検査だけでなく利用者の健康情報もアプリから見ることが可能になっており、ワクチンや定期検診などのスケジュールも立てやすくなっています。
そのほか、支払いの際には低所得者の利用者でも支払いがしやすいように、低価格に設定された医療サービスやさまざまなケアや方法を提案してくれます。
そのため、近年ではさまざまな企業やファンドから資金調達を獲得しており、医療ケアへのアクセスを向上させるためのイノベーションモデルとして注目されています。
ライター紹介
増田さなえ
米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。
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AA Health Dynamics株式会社
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