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ポストコロナにおけるアフリカの感染症動向の変容

COVID-19は、アフリカにおける感染症の状況に大きな影響を与え、アフリカ大陸全体の公衆衛生における課題と進歩の両方を明らかにしました。ここでは、現在(2024年時点)の感染症の現状や対応、ポストコロナにおける課題についてお伝えしていきます。



ポストコロナの他の感染症の現状

COVID-19以前もアフリカ諸国では、さまざまな感染症に悩まされていました。ここでは、COVID-19後はそれらの感染症がどのような変容を経ているのかその現状をお伝えします。

新たな感染症のパンデミックの恐れ

COVID-19により、世界中でCOVIDワクチンの接種や治療が始まりました。それと並行してメジャーな感染症(マラリア、HIV/AIDS、結核)などの治療も行われているため、そこまでその影響は出ていないようです。

けれども、治療やワクチン費用の増加により、アフリカ諸国では他のマイナーな感染症対策が後回しにされ、治療も滞りがちになっています。そのため、小児に多い下痢性疾患や下気道感染症などの大発生がアフリカ諸国で懸念されています。

アフリカ諸国の政府は、医療費の圧迫のため、COVID-19以降は治療に必要な薬や治療代金のような、数パーセントにも満たない予算でさえも出し渋るようになりました。その結果、幼い子どもたちの治療数はここ数年で格段に少なくなり、子どもたちの死亡率が増加しています。

※参照URL:Report reveals major benefits of action on other infectious diseases in Africa amid COVID-19
※参照URL:Neglected tropical diseases activities in Africa in the COVID-19 era: the need for a “hybrid” approach in COVID-endemic times | Infectious Diseases of Poverty


「顧みられない熱帯病」治療の遅滞

マイナーな感染症だけではありません。「顧みられない熱帯病(NTDs)」に対する対応も、COVID-19の影響で遅れており、その再開が必要とされています。

顧みられない熱帯病(NTDs: Neglected Tropical Diseases)とは、特に開発途上国で貧困層を中心に広がり、健康や経済に重大な影響を与える感染症や世界的な注目や資金提供が少ない感染症群のことを指す言葉です。これらの病気は通常、熱帯および亜熱帯地域で見られ、健康管理体制が弱い地域で多くの人々に影響を与えています。特に、アフリカ諸国では、オンコセルカ症(※1)やリンパ系フィラリア症(※2)、デング熱(※3)アフリカ睡眠病(※4)などの感染症は、ポストコロナから治療を受けられないことも多く、それらの罹患数が増加しています。

これらの病気は、感染の影響を受ける地域において労働能力を損なうだけでなく、貧困の連鎖を強化する要因ともなっています。そのため、コロナの治療と並行した対策が必要と考えられています。

※1:河川盲目症:視覚障害を引き起こす寄生虫感染症で、主に西アフリカの河川沿いの地域に広がる
※2:象皮症と呼ばれ、リンパ系にダメージを与え、身体の一部が異常に腫れる
※3:蚊を媒介とするウイルス性疾患で、熱帯および亜熱帯地域で広がり、多くのアフリカ諸国で発生している
※4:アフリカ赤道付近に多く発生し、ガンビアトリパノソーマ(Trypanosoma brucei gambiense)またはローデシアトリパノソーマ(Trypanosoma brucei rhodesiense)という原虫によって引き起こされる感染症であり、治療しなければ昏睡や死に至る
※参照URL:Neglected tropical diseases activities in Africa in the COVID-19 era: the need for a “hybrid” approach in COVID-endemic times | Infectious Diseases of Poverty
※参照URL:Leveraging Ebola lessons to mitigate COVID-19 impact | WHO | Regional Office for Africa


COVID-19前後で変わったこと

ポストコロナでは、悪かった点ばかりがクローズアップされてしまいますが、従来よりも改善できたポイントもたくさんありました。ここでは、COVID-19前と後を比較して、どのような変容があったのかをご紹介します。


治療に関するターゲットと医療資源の転換

COVID-19の治療のために、さまざまな医療用資源(治療薬や医療用施設、または医療に必要な注射針、脱脂綿、アルコールなどの医療用備品など)がポストコロナ禍で大量に消費されるようになりました。

これは、COVID-19の患者数が他の感染症の患者数よりも圧倒的かつ瞬時に増えた結果なのですが、その分、他の感染症(HIV、結核、マラリアなど)の治療や管理に影響が出るようになりました。

特に治療に関しては、COVID-19対策に集中させるために医療従事者やインフラが見直され、再配置されたため、上記のような他の感染症に対する治療や感染症管理などの保健サービスが中断されてしまいました。

その結果、感染症の種類によっては治療薬の不足や治療を受けることができず、命を落としてしまう人も出るようになってしまいました。
  
※参照URL:https://www.afro.who.int/health-topics/coronavirus-covid-19
※参照URL:https://www.nature.com/articles/d41586-023-02749-5


疾病サーベイランスと対応の強化

COVID-19パンデミックを通じて、改善されたこともありました。その1つが多くの国で感染症対策が強化されたことです。その中でも現在のアフリカ諸国では、感染症サーベイランスの強化に力を入れて取り組む国が多くなりました。

感染症サーベイランスとは、感染症の発生や拡散の状況を継続的に監視、収集、分析し、その情報を元に対策を講じる活動を指します。このプロセスは公衆衛生の重要な一部であり、感染症や慢性疾患の流行を防止し、健康を守るために行われます。

例えば、アフリカCDCの病原体ゲノミクス・イニシアチブ(Pathogen Genomics Initiative)は、ゲノムサーベイランスと呼ばれる、病原体の遺伝情報(ゲノム)を解析して、その変異や進化を監視する活動を拡大し、感染症のより良い検出と監視を可能にしました。

また、PanaBIOSシステムのようなデジタルツールの導入により、保健緊急時の国境を越えた連携が改善されるようになりました(ガーナ、ナイジェリア、ケニア、ウガンダ、セネガル、シエラレオネ、エチオピア、ルワンダ、ザンビア、ジンバブエ、トーゴ)。

このシステムは、パンデミック対策のためのデジタル健康パスポートおよびサーベイランスが一緒に活用できるシステムであり、特にアフリカにおいてCOVID-19の管理に利用されているプラットフォームです。
PanaBIOSは、各国の公衆衛生機関が感染拡大を管理し、旅行者の健康状態を追跡し、早期発見により感染症を予防するのに役立っています。

※参照URL:1.感染症サーベイランスとは
※参照URL:https://www.nature.com/articles/d41586-023-02749-5
※参照URL:Trusted Travel – Africa CDC


ポストコロナの感染症の課題

COVID-19によるパンデミックは、アフリカ諸国が見過ごしてきた課題を浮き彫りにしました。ここでは、今後どのような課題にアフリカ諸国がどのような課題に取り組む必要があるのかをお伝えしていきます。

医療物資支援の依存からの独立

多くのアフリカ諸国が独立した1960年代以降、アフリカ諸国は、診断薬、治療薬、ワクチン、個人用保護具、その他の医療用品など、健康安全保障に必要な医療物資の大部分を国外に依存してきた歴史があります。

COVID-19のパンデミックは、国際協力や多国間協定が、世界的な危機に直面したときに、いかに簡単に瓦解(がかい)しうるか、そしてこの依存がアフリカをいかに脆弱にさせるかを露呈しました。

原則的には、アフリカは近年、サーベイランスと感染症発生時の公衆衛生対応において、驚くべき成果を上げてきました。しかし、医療物資の依存をなくさなくては根本的な解決とはならず、これから起こりうる新たな感染症の脅威に対処できないだろうと考えられています。

※参照URL:Two years of COVID-19 in Africa: lessons for the world


医療システムの強化

医療設備や人材の不足は、パンデミックの影響を受ける他の感染症(マラリア、結核、HIVなど)にも大きな影響を及ぼしました。特に医療インフラの整備不足は今後の1番の課題になるといえるでしょう。
そのため、今後アフリカ諸国は病院、クリニック、診療所などの医療施設の数を増やし、より多くの人たちが医療機関へアクセスできるようになることが重要であると考えられます。

また、医療従事者の育成と確保も今後の大切な課題になるでしょう。医師、看護師、薬剤師などの医療専門職の数を増やし、彼らの技能を向上させるための教育と訓練プログラムを拡充することが必要であると思います。特に、地方や農村部における医療従事者の確保が課題となると考えられます。
そのほか、医療システムでは情報システムとデジタルヘルスの導入も必要になってくると思います。患者記録の電子化、テレメディスン(遠隔医療)の導入、デジタルヘルスプラットフォームの活用などにより、医療サービスの効率性と品質を向上させます。

公衆衛生インフラの強化

公衆衛生の取り組みとして、予防接種プログラム、母子保健サービス、感染症対策(サーベイランス、検査、隔離など)の強化も課題になると思います。
また、アフリカ諸国は大陸ですので、各国が協力しあう体制も必要になると思います。そのため、災害時やパンデミック時の緊急対応能力を強化するため、備蓄の確保、緊急医療チームの編成、早期警戒システムの導入の拡大が必要になるでしょう。
また、PanaBIOSシステムは1つの例ですが、知識の共有や共同研究など、他国や国際機関との協力を通じて、技術支援や資金援助を受け、医療システムの強化を図ることが求められると考えられます。
今後はさらなる感染症に関する情報のデジタルツール化やネットワークシステムの構築化をアフリカ諸国で連携して行っていくことが、全ての感染症に対する対策になってくると思います。
※参照URL:Key strategies to accelerate Africa’s post-COVID recovery | Brookings
※参照URL:Long-term strategies for an African recovery from COVID-19: A CEO’s perspective | Brookings
※参照URL:A new model for public health in Africa can become a reality


まとめ

ポストコロナのアフリカ諸国では、感染症に対する対応と対策が大きく変容しました。パンデミックを通じて多くの国が医療システムの脆弱性を認識し、これを強化するための取り組みが加速しました。
まず、医療インフラの整備が進められるとともに、医療従事者の育成と確保も重要な課題とされ、彼らの技能向上を図るための教育と訓練プログラムが拡充されました。
次に、デジタルヘルスの導入が進み、患者の情報管理が効率化され、遠隔地の患者への医療アクセスが改善されました。また、感染症の監視と管理も強化され、サーベイランスシステムが導入されるようになりました。
特に、ゲノムサーベイランスの導入により、新たな感染症や変異株の早期検出が可能になり、感染拡大のリスクが低減できるようになっています。
これらの変容は、将来のパンデミックや感染症の流行に対する備えを強化するとともに、今後新たな感染症の出現に対する大きな課題にもなっています。

ライター紹介
増田さなえ
米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。

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AA Health Dynamics株式会社
Email info@aa-healthdynamics.com

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