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かたる、きく を垣間みる
新今宮のフレル朗読劇団で、来年3月に朗読会を考えている。
長編の昔話を朗読劇でやってみるが、
それ以外にも、テキストを持たない語りの可能性を探りたいと思っている。
7月の稽古でこんなことをやってみた。
一人が語り手、もう一人が聞き手である。
語り手は3分くらいを目安に聞き手に話す。
聞き手はただ、聞く。
あいづちなどは入れていいが、質問などしてあまり自分のところに引っ張らないようにする。
話し手を邪魔しない聞き方をする。
その二人の姿を観客に見せるのだ。
昨年の朗読会では、観客を相手に一人で語ってもらったが、
それをすると、語り手、観客、どちらにもある種の緊張感が走る。
もう少し、ラフに聞いてもらえる方法はないか、と思ったのだ。
まるで二人の会話を垣間見るような構造にすると、面白いのではないか。
テーマは「自分が小さい頃見たり聞いたりしたことで、今の自分の素地になっていると思われる出来事、を語ってみてください」
まず一組やってみた。
語り手の小さい頃のあるできごと。
これによる教訓などなく、ただ、そうであったというエピソード。
しかし、それは今の自分につながっていると感じている出来事。
見ているこちらもなんだか納得する。
語り手が終わった後、「これ、特にオチはいらないんですよね」と確認。
たしかに、普段の大人同士の会話なら、
「こんなことを思い出したのは、きっと今の自分のこのこととつながっているからだと思う」などのフォローやある種の落とし所を言わねばならないと思ってしまう。
しかし、この話は言いっぱなし、聞きっぱなしでいいと思う。
そんなことを確認しあった。
この1組目で、あ、これは観客として見るのは、相当おもしろい!と感じた。
二組目。
かずちゃんが手を挙げた。
今回のnoteはこのかずちゃんの語ってくれたことをとりあげます。
かずちゃんとは新今宮でもう何年も前に知り合った。
かずちゃんは、いつもカラフルな洋服を着てくる。
柄物の上下など、他の人が着るとなんだかおかしな感じがするが、かずちゃんが着ると、成立してるのが不思議である。
ダンスや歌も歌う。
普段の稽古から、かずちゃんが、いつか自分のことをじっくりと語りたい、という願望のような願いのようなことを何度か話していた。
「最近のことなんやけど・・・」
とかずちゃんは話し始めた。
障害者施設で週に何日か働いているかずちゃん。
今日担当している人を作業所まで迎えに行った。
「ほんまはそんなことせんでええねんけど、お迎えに行ったら嬉しいかなと思って」
かずちゃんは、電柱のところで待っていた。
そうして彼がやってきた。
彼はかずちゃんの姿を見たら、すっと手を出してくれたという。
「うれしかった。ふだんはあんまりしゃべらん人やけど、ぼくの方に手をすっと出してくれたん。そして二人で手つないで帰ったんよ」
「すごくうれしかった。あったかい気持ちになって」
「ぼく、家に帰っても一人やし、お母ちゃんももういてへんし、だからぼくを信頼して手出してくれたん、うれしかったんよ」
「ほんまにささやかなことなんやけど、そういうことが幸せなんちゃうかなと思って」
聞き手のカエルさんは、その最中、ほとんど声を出していない。
あとできくと、反応しないように踏ん張ったとのこと。目を見たら、引き込まれそうで、それも外すのに必死だったと。
かずちゃんは、喋りながら、三度、自分の椅子をカエルさんのところに近づけた。
最後は、話しながらカエルさんにすこし触れた。
カエルさんが、踏ん張る気持ちはよくわかる。もっていかれそうになるくらい
かずちゃんの話し方には、独特の雰囲気がある。
けれども踏ん張れば踏ん張るほど、かずちゃんはカエルさんとの距離を近づけていって、
「そう思うねん。どうかなあ」
と、とうとうカエルさんに直接に触れた。
かずちゃんの自然な話し方や所作に、見ている我々は釘付けになり、わたしは涙してしまった。
この人のどうしようもない孤独や寂しさ、その中でも発見した最近の幸せ
特別なことは何も言ってないけれど、そのことに惹かれてしまうのは
かずちゃんが持っている純粋性なのだろうと思う。
そのあと、三組目の語り手、聞き手と稽古は続いた。
やっぱりみんな素朴な内容だった。
それだけに、その語り方、聞き方に、その人がしっかりと現れていて
見応えのある語りだった。
自分の思い出した何気ない出来事を、隣の聞き手に話す。
何を話しても、語る姿そのものが、まぎれもなく唯一無二の存在で、尊さを感じる。
また、聞き手の存在も大切で
この人の聞く姿勢、声、表情などでずいぶんと話す雰囲気も変わるように思う。
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ここで観客として何を見たらいいのだろうか。
聞き手のきく姿勢、語り手の話し方、そんなこともあるし、
聞きながら話し手に自分を投影していくことも起きるようだ。
語る姿、聞く姿を見ながら、稽古なのに
この人たちがみんな、今、生きていてくれてよかったな、と、心から思った。
かずちゃんだけではない、全員にそれを感じた。
フレルのメンバーはやってみて全員おもしろい!と言ってくれた。
何人かは同じように語りを聞いていて涙していた。
何が起こっているのかわからないけれど、もう少し続けてやってみようと思う。
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このあと、かずちゃんにこのことを掲載するお願いをしたらこんな返信が来た。
「なんの文章かわかりませんが
ゆりさんの自由ですよ
投稿しやはるんやったら
楽しみです」
かずちゃんの聞き手だったカエルさんにもこの文章を読んでもらったところ
以下の感想を送ってくれた。
それがまたとても正直なので、お願いして掲載させてもらうことにする。
「かずちゃんの話の聞き役として大事にしたのは沈黙だった。ふたりの間の沈黙は話し手であるかずちゃんのもの。僕がその沈黙を奪ってはいけない。そう思ってじっとしていた。
ただただかずちゃんの沈黙に耳を澄ませた。じっと耳を傾けた。
沈黙の中でかずちゃんはずっと話しつづけていた。そう感じた。声や言葉になる前の、あるいは声や言葉やならない何かを、ずっと語っていた。語りつづけていた。沈黙という形式で。
僕は反応しなかった。応答しなかった。そんなことをすればその瞬間にかずちゃんの何かは姿を消してしまうと思った。
かずちゃんが得心のいくまで最後の最後まで話しつづけてほしいと祈った。かずちゃんが話し終わるその最後まで聞き切ることが僕のすることだと思って踏ん張った。」
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きく、語るの時間はこれからもつづけます。