ウォーカブルシティ(前編)
都市で暮らす人の増加
都市で暮らす人の数は、世界規模で増加しています。国際連合広報センターによれば、1950年代には世界人口の30%程度だった都市住民の割合が、2009年には農村部で暮らす人々の数を上回り、現在は55%程度に達しているのです。ちなみに、世界の陸地面積全体に占める都市の割合はわずか2%未満ですが、全世界の国内総生産(GDP)の80%と、炭素排出量の70%以上を都市が占めています。日本では、都市部への人口集中の傾向はさらに顕著であり、いわゆる「市部」の人口が総人口の9割強を占めるのです。市部とは、東京都特別区とすべての市を合わせた地域のことで、人口要件は4万人です。残りは、町村の区域ということで「郡部」と呼ばれます。よって、日本人のほとんどが人口4万人以上の〇〇市と呼ばれる地域に住んでいることになります。それゆえ、市部に住む人々の健康とウェルビーイングを高め、アクティブな生活を担保することが重要な政策課題となりますが、これは日本に限らず、都市への人口集中が進む世界規模の問題でもあるのです。
都市に必要な多様性
これまでの経済効率を最優先した近代都市では、広い幹線道路沿いに大型のショッピングモールが配置されるような「自動車中心のまちづくり」が主流でした。それに異を唱えたジェイン・ジェイコブズは、『アメリカ大都市の死と生』(鹿島出版会)の中で、自動車に頼る無機質な近代都市計画を批判したのです。ジェイコブスは、都市の多様性こそが重要と主張し、住みよいまちづくりには、雑多で人の流れが絶えない有機的な都市空間が不可欠であると指摘しました(注1)。その一方、ヤン・ゲールは、『人間の街』(鹿島出版会)の中で、持続可能かつ健康的な街づくりの必要性を強調し、滞留できる広場は、通過と比べて30倍の活動を生み、20~30mで景色が変わることが歩く人の意欲を高めると主張します。さらに、多くの人が抵抗なくあるくことができる距離は500mであり、100メートルの間に15~20の店舗が並ぶと、歩行者は4-5秒ごとに新しい体験をすることができるなど、街路の多様性や目に映る景色の変化が重要と指摘したのです(注2)。
両者に共通するのは、人が歩くことを基本とした多様性のある公共空間の整備で、街路空間を、車中心から人間中心の空間へと再構築する試みが重要なのです。アクティブシティの実現には、沿道と路上を一体的に使い、人々が集い憩い多様な活動を繰り広げられる場へと転化することが重要となります。私は、アクティブシティを「アクティブな移動手段とスポーツ実施が高いレベルで維持できる、アクティブライフスタイルの条件が満たされている都市(まち)」と定義しましたが、中山間地域のような過疎地では、車が不可欠の移動手段であり、歩くことをメインとしたアクティブなライフスタイルを維持することは困難です。よって、アクティブライフに対するモチベーションを喚起するには、ある一定の人口規模と、歩くことが楽しくなる商業施設の集積が必要となります。その点、人口密度が高い市部に9割の人口が暮らす日本は、アクティブシティ化が比較的行いやすい状況にあると言えるでしょう。