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Vol.78 やって見せる教育(2010/5/27)

2010年6月6日(日)、「親子塾2010」のダイジェスト版ともいうべき、丸善での著書刊行記念講演は、おかげさまで成功裡に終えることができました。当日は東京も大雨でしたが、そんな中でも熱心な方々がお集まりくださり、私もいつも以上に熱を込めてお話させていただきました。
多くの方が私の話に共感し、時に感動の涙を流してくださり、私が信じる教育の持つ大きな力について再認識を深めてくださったことと思っています。

私という人間が現在存在し、日々生活させていただいているのは、間違いなく子どもの時から受けた両親、祖母、兄からの「家庭教育」のおかげです。
家庭で受けた家族からの厳しくも優しい愛情の教育。小学校時代の恩師による「自信」を与えてくれた本気の教育。私が教師を目指すきっかけを作って
くださった中学校時代の恩師の、決して怯まない勇気の教育。そして、大学
受験という私の人生の岐路を支えてくださった高校時代の先生方の、真剣勝負の教育。
私は、それぞれの時代で、その時の私の「生き方モデル」となってくださる
ような素晴らしい先生と出会うことができました。
大人ってこうあるべきなんだな、困った人がいたらこんなふうに僕も助けて
あげよう、困難にぶつかってもこんな姿勢で立ち向かうって素晴らしい。
先生たちは、具体的な行動で「こう生きるべき」という生き方を見せてくだ
さった
のでした。
幼い私がその時に「感情・感動・感覚」で受け止めた、大人に対するそうい
った気持ちは、実は私が大人になる上での軸となる「価値観」を形成してい
たのです。私を教育してくださった多くの大人の方から得た価値観は、私の正義感や道徳心を形成し、人生における重要な選択に迫られた時には、より良い道に進むための羅針盤となりました。

大人になってから、私はこのことを胸に刻んで教育活動に取り組んできました。すなわち、私は、大人が語った「言葉」から、何が正しいのかを学んだのではなく、大人が何をしたのかという「態度や行動」から、何が正しいのかを感じ取ったのです。これが重要なポイントです。

「靴を揃えなさい」という大人の言葉からは、子どもはあまり多くを感じることはありません。「靴をそろえるのは大切だな」と頭で理解することはできますが、それがリアルな感覚としては入ってこないのです。
ところが、「靴はこうやって揃えるんだよ」と言いながら「目の前で靴をそろえている大人」の行動を実際に見れば、子どもは何かを感じることができます。言葉と行動を一緒に体験すると、納得度がぐっと上がるのです。
これを私は「やって見せる」と表現しています。

私も、昔堅気でどちらかと言うと寡黙な私の父の「背中」を見て育ってきました。父の背中は、ある意味、言葉よりも饒舌に私に語りかけて来ることがありました。
今の時代はどうでしょうか。
親よりもむしろ子どもたちのほうが忙しく、親が背中を見せる時間も、子どもがその背中を見る時間も共有できていないのではないでしょうか。
今の時代、遠回しな方法だけではダメなのです。
子どもに靴を揃えてほしいと思ったら、子どもの目の前で靴を揃えるのがもっとも効果的なのです。子どもの目の前で靴を揃えて見せて、なぜ靴を揃えているのか、その思いを、行動を伴う言葉で子どもに直接伝えることが重要なのです。
これを面倒くさがっているようではいけません。また、恥ずかしがる必要もありません。
やって見せること。
行動こそが子どもたちに最も効果的な教育となるからです。

家庭では子どもに対して、学校では生徒に対して、そして会社では部下や新入社員に対して。言葉と行動を一致させ、「やって見せる」教育に取り組んでみてください。
今度はあなたが、「生き方モデル」となって、正しい価値観を示してあげてください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(感謝・原田 隆史)2010年5月27日発行
*発行当時の文章から一部を変更している場合があります。

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