もどかしい距離感だった、上海焼きそば。
自分のほうとしてはなんとなくその相手のことをいいなと思ったり、もっと勇気をもって言えばちょっと好きだなと感じていたりするのに、その実、相手についてほんとうは何も知らない、というもどかしい距離感がときどき世の中にはありますよね。
それが人間相手だと恋の始まりの兆しだったりするんですよね。
そしてそういうぼんやりした好意から一向に先に進まない関係というものも存在して、自分にとっては上海焼きそばがそういう対象だったと思う。残念ながらこれまで、どこをどうとらまえればおいしくなるかが、もうひとつつかみきれていなかったのだ。
だから上海焼きそばを作るときはいつも少し緊張した。初めてのデートみたいに、相手の一挙手一投足にひそむ何かのサインを見逃すまいと身構えてきた。でもそのたびに空振りに終わってきた気がする。
それでも今回思いきってまた挑戦。そうやって何回か作るうちに少しずつわかってきたところもある。それは、思いきりのよさとある程度の雑さ、ラフさが心地よい関係への第一歩だということだ。
要は、そんなに気を遣う相手じゃないってことかなあ。変に気を遣えば遣うほど関係はギクシャクするってことです。このへん人間相手と同じかも。
おかしなことを書いてますが、そろそろ作っていきまっしょい。
今回の分量はスーパーでよく売られている焼きそば3個入りパックをふたりで食べるときの見当です。
いつもの手順を、呼吸するように自然に。
豚肉はふたりで100gもあればいい。150gでもいいし、食べたいだけ入れればいい。食べやすい大きさに切ったら塩コショウをひとつまみ、紹興酒ひと垂らしをなじませておく。中華を作るときのお決まりのルーティン。
鍋に油を敷き、刻みニンニクと生姜、輪切り唐辛子を熱して香りと辛味を引き出す。これもひゃっぺらぺん(「幾度となく」を意味する関西弁)繰り返してきたルーティン。
香りが出て、ニンニクの縁がほんのり色づいたら豚肉を入れて炒める。
野菜は背伸びして入れすぎない。青菜とキノコがあればじゅうぶん。
小松菜・・・1〜2束、エリンギ・・・大1本を食べやすい大きさに切って投入。あとは麺と合わせ調味料を加えて炒めるだけ。
麺を入れるときにできれば予めレンチンするか、湯通しするなどしてほぐしておくとこのあとブチブチの短麺になることを避けられます。
今回、面倒がって袋から出したそばをそのまま放り込み、水をジャーって回しかけて蓋をし、蒸らしたのですが、ちょっと蒸らしが足りなかったか麺が切れがちになってしまいました。ちぇ。賞味期限ギリギリの半額セールの麺だったことも災いしていると思うけど。
味つけは強気で、じゃないと上海港が霧にかすみます。
<合わせ調味料>
焼きそば麺3個パックに対し
醤油・オイスターソース・・・各大さじ1
鶏がらスープの素・・・粉末の状態で小さじ1
これをベースに、あと塩や醤油、豆板醤あたりで調整してください。
醤油はもし家庭にあれば(ないのがふつうだけど)半量を中国醤油に替えてください。中国醤油は日本のものより色が濃くまろみが強いので、入れることで俄然香りも色も本場に近づきます。逆に塩分は控えめ(小麦粉や砂糖が入っています)なので、塩をひとつまみ加えて調整してもいいかも。
けっこう強気で塩気を入れないと、この焼きそばは味がぼんやりしがち。合わせ調味料をからめて味見して、もし薄く感じたらためらわず塩なり醤油なりを足してください。やさしいつもりでほんとうはビビっているだけ、相手のプラスにはなっていない、そんな態度はダメです。
オイスターソースはちょっと高いけど、ぜひ李錦記の青いフタのやつ、貝柱入りを! 風味が全然違います。いつも愛用しています。
本場上海ではもちろん「上海焼きそば」とは呼ばないけど、これに類した「炒麺」なる料理があります。多くはもっと太めのもちもち麺で、青菜と牛肉などを具にしてやはり濃厚な醤油ベースのタレで炒めています。食べ終わった後のお皿はギットギト。ことほどさように上海の人は甘辛濃厚風味が好きみたいなので、そのイメージからこの日本独自の中華料理がそう名づけられたのでしょう。
仕上げにぐるっとごま油。唇をテカテカにして召し上がれ。
ごま油を鍋の周囲にぐるっと回しかけたら、もう一混ぜして皿に盛ります。ちょっと油っこいぐらいが本場風。ぞぞぞー、もさもさと食べ進めれば、こっくりした中にも上品なオイスターソースの海鮮風味が全体を引き立て、箸が止まりません。
うん、今回麺のあしらいにはちょっとしくじったけど、だいたいの味つけにおいては及第点にようやく達した気がする。今までよりもグッと上海焼きそばと仲よくなれたんじゃなかろうか。思いきって雑に扱うことで、相手も気を許してくれた気がする。
皆さんもソース焼きそばに飽きたら、上海焼きそばをお試しあれ。思っているよりお手軽なのでオススメです。