ずっと変わらずにはいられないから、未知のケイジャンチキンを作ったりもしてみる。
またひとつ季節が変わる。皮膚の深部の神経まで焦がしてしまいそうな苛烈な陽射しの季節も、気がつけばおおかた過ぎ去ろうとしている。
けど、そのことに対する焦燥感や甘酸っぱい感傷みたいなものは、おじさんとしてのキャリアを積むにしたがいどんどん薄れて、今ではもうほとんど残っていない。ひと夏の何ちゃら、みたいに、夏に何かを期待する年齢ではもうぜーんぜんないのだ。ただもう目の前にあるあれこれ雑事をこなして月日が過ぎていく。それだけだ。よくも悪くも。
で、そんなふうに雑事にかまけてこのnoteも、またまた1ヶ月ほど更新しないまま放置してしまった。いかんいかん。せっかく新規にフォローしてくださった方もいるというのに。
そんなんじゃきっとダメなんだろうなあと(ぼんやりとではあるにせよ)思ったので、今日は久々に、初めて作った料理のことをつらつら書いてみるよ。秋の夜長のヒマつぶしにでもお目通しくだされーい。
では、レッツゲットクッキーン。
ケイジャンチキンという曖昧な存在。
鶏もも肉が好きである。欧米ではそれほど人気の部位ではなくて、むしろ胸肉の方がありがたがられるという話も聞いたりするけど、個人的には世のおじさんの大多数にもれず、プリップリもも肉派である。「ずっと真夜中でいいのに」とは思わないけど「ずっと鶏もも肉でいいのに」とは思う。それも「ずっと唐揚げでいいのに」と思っている。そんなことを以前も書いた気がした。
しかし寝食を共にする妻に対してそれでは申し訳ないという気持ちがある。なので、ただ安いというだけで買った鶏もも肉の処遇に困ってあれこれ考えているときに、ふとケイジャンチキンのことを思い出した。何かアメリカにそういうスパイシーな鶏のBBQ料理あったよなー。それやってみっか、という具合。もしおいしければ見っけもんである。
調べると(と言ってもまあWEBサイトを斜め読みするぐらいだけど)ケイジャンチキンはアメリカ南部のルイジアナ州でフランス系カナダ人移民が生み出したスパイシーな鶏料理で、決めてはオールスパイスとチリペッパーらしい。それならうちに常備している。とくにオールスパイスはなかなか使い途がなく持て余しているぐらいだ。よっしゃやったろやんけ。
しかしサイトによってスパイスの内容も分量もまちまちで、これがド直球の味、これが正解、というものが全くわからない。逆にいうと各家庭によってかなり味に差があるぐらいのラフな料理なんだろう。こちらも肩の力を抜いてかかることにした。
用意したスパイスは目分量で以下の通り(鶏もも肉一枚に対し)。
オールスパイス パプリカ ガーリックパウダー 塩 小さじ1/2
チリパウダー ナツメグ 小さじ1/3
赤唐辛子 ひとつまみ
……だったかなー? 正直、うろ覚え。
全部この倍ぐらい入れてもよかったかも、と思ったことを
先に書いておきます。
これらを唐揚げ大に切った鶏もも肉にもみ込んで一時間以上置いておく。すぐにでも食べてしまいたい、と思うかもしれないが大人なので我慢できる。何なら、おいしさのためなら積極的に待てる。
雑に焼く。むしろ雑さに重きをおく。
全体に軽く片栗粉をまぶし、多めのオリーブ油を敷いたフライパンでカリッと焼く。あまりひんぱんにひっくり返したりのケアはなんとなくこの料理に似つかわしくないような気がしたのだ。
途中、適当に切った玉ねぎ、ピーマン、オレンジ色のパプリカなんぞを追加する。なおもまめに混ぜたりはしないで、少し野菜が焦げるぐらいのテンションで料理する。私はルイジアナ州のフランス系カナダ人、と想像して、なるべく日本人らしい手癖を抜く。そんなふうに火加減とか炒め方とかで「他人を憑依させる」ことが異国の料理を再現するときのちょっとした隠し技みたいなものじゃないかと思っている。確証はないけど。
ただ変わり映えだけを重視した料理、完成!
ばばーん。さしたる工夫も苦労もなく、そして何が正解かの指針もなく、ケイジャンチキン(?)のできあがり。
食べてみると……むっ? これでいいのか? 甘やかな香りとほんのりした苦味。これはどちらもスパイス由来のものだろう。しかしそれほど強烈ではなく、クセもなくてむしろ食べやすいぐらいだ。というか、スパイスがあれでは足りなかったのか、それとも長期保存しすぎて風味が飛んじゃってたのか、予想に反して全体に淡い味わいに仕上がっている。辛味もほとんどない。これは大いなる誤算。
いや、おいしいよ。おいしいけど、もっとガツンとくるものを想像していたなあ。絵画で言うとゴッホの向日葵を期待していたのに画材が色鉛筆だったぐらいの淡さ。日和っちゃったかなあ。これは再挑戦の余地があるな。一回カルディあたりで市販品のケイジャンスパイスを買ってきて、正解を探らねばならぬ。
あー、そういえばコショウ使うの忘れたな。それも原因かなあ。
日本人のおじさんが見よう見まねで試したアメリカ南部のフランス系カナダ人料理は、ぼんやりとした靄の中に浮かぶシルエットでしかなかった。
でもまあ、ただ無闇に過ぎ去るばかりの日常にほんの少しでも変化を取り入れること、それを億劫がらずに続けることが大事ですよね。そして人生は(ある日唐突に終わるかもしれないとしても)続くわけだから。
よっっしゃあああ、やったるでー。ケイジャンチキンのリベンジ。
それからジャークチキン、バッファローチキン、オレンジチキン……。そうさ、まだまだ異国の鶏料理がオレを待ってるぜ。
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