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環境価値取引の会計処理の考察

私たちが開発するカーボンクレジットプラットフォームに関連する法規制の理解として、2023年9月に公表された会計制度委員会研究報告第17号「環境価値取引の会計処理に関する研究報告-気候変動の課題解決に向けた新たな取引への対応-」が公開された。
同報告書を理解した内容として、概要を以下にまとめたものである。


1.カーボンニュートラルにおける会計制度

近年のカーボンニュートラルへの取組に際して、種々の環境関連取引が行われるようになっており、新たな環境関連取引に関して会計処理が明らかにされていないものがある。このような新たな取引に関して2023年9月に委員会研究報告第17号が公表され、温室効果ガス排出削減吸収という環境の保全に関する付加価値を直接対象とする環境価値取引に限定して、その検討がなされた。

既に公開されている実務対応報告第15号(https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/em_trade-1.pdf)において、将来の自社仕様を見込んだ排出量取引におけるクレジットを取得する場合の主な会計処理には以下のとおりである。

・他社から購入する場合
無形固定資産または投資その他の資産。減価償却を行わず、自社排出量削減に充てられたときに費用計上
・出資を通じて取得する場合
企業会計基準第10号(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/accounting_standards/y2006/2006-0811-2.html)に従って会計処理。クレジットが分配された場合は現物分配(https://www.ey.com/ja_jp/library/info-sensor/2019/info-sensor-2019-08-06)と同様に会計処理。子会社関連会社に該当する場合には連結・持分法により会計処理。

2.クレジットを用いた取引の整理


クレジットを用いた近年の環境価値取引の事例として、以下の2点が取り上げられている。
・J-クレジット制度
省エネルギー設備導入及び生成可能エネルギー利用によるCO2などの排出削減量並びに森林管理によるCO2などの吸収量をクレジットとして国が認証する制度。
・二国間クレジット(JCM)制度
日本が途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度。日本企業による投資を通じてパートナー国において優れた脱炭素技術やインフラなどの普及を促進する事により、クレジットを獲得するという仕組み。

上記2点については、実務対応報告第15号の考え方を斟酌して会計処理を行う対象として取り扱う事が可能とされた。

3.実務対応報告第15号との類似性の検討


一方で実務対応報告第15号の前提となる京都メカニズムにおけるクレジットとの類似性の判断基準が示されていないため、以下の類似性の検討が必要とされた。
・京都議定書における国政的な約束を各締約国が履行するために用いられる数値である事
・国別登録簿においてのみ存在する事
・所有権の対象となる有体物ではなく、法定された無体財産権ではないという事
・取得及び売却した場合には有償で取引され、財産的価値を有している事

4.ボランタリークレジットと基準の整合性

さらに政府が主導するクレジットの他に、民間セクターが運営するボランタリークレジット制度が国内外に存在するため、以下のような課題が識別されている。
・ボランタリークレジット制度に京都メカニズムにおける四つの特徴を個別的に当てはめて実務対応報告第15号の適用を検討することは、政府主導のクレジットよりも難しい可能性がある。
・政府主導の制度と比較すると規制や法的拘束力がない場合や取引価格や取引量が不透明である場合には、資産性の有無に関する判断にばらつきが生じる可能性がある。

加えて、ガスの採掘から燃焼迄の工程で発生する温室効果ガスをボランタリークレジットにより相殺し、排出量を実質ゼロとすることで、全体での温室効果ガス削減を目指すカーボンニュートラルLNG取引という事例がある。国内事業者が産ガス国において焼却された原料を仕入れる場合には単に仕入単価の高い材料を仕入れているに過ぎず会計処理論点は特にないと考えられる。

一方で、国内ガス製造会社等自身がクレジットを取得し、製造時に償却するもしくは顧客への販売後に事後的に償却する場合には事後的な会計処理の検討が必要となる。
・実務対応報告第15号の適用対象となる場合:クレジットを資産に計上し、クレジットを償却した際に費用処理する。費用処理は原価として処理し、顧客への販売時までは棚卸資産として処理することも考えられる。
顧客販売後、事後的にカーボンオフセットを行う場合、実務対応報告15号では確実に償却が認められる場合、第三者へ売却する可能性がないと見込まれる場合にのみ費用とすることが適当であるとされており、実際の使用見込み等を勘案して費用処理を行う事が適切である。
・実務対応報告15号の適用対象とならない場合:資産計上することが適切でないと判断される場合にはクレジット取得時に費用処理を行うものと考えられるが、原価として処理し顧客への販売までの期間は棚卸資産として計上する余地があるか慎重に検討する必要がある。

5.非化石証書と基準の整合性

非化石証書(発電時にCO2を排出しない電気が持つ環境価値を電気自体の価値と切り離して証書化したもの)が2018年5月より非化石価値取引市場において取引が開始されている。研究報告17号では市場取引又は相対取引において有償取得した非化石証書に係る会計上の取扱いについて検討されている。
非化石証書はそもそもクレジットではなく、以下のとおり京都メカニズムにおける類似性の観点から、実務対応報告15号の適用対象と判断することは難しいと考えられる。
・非化石証書は非化石電源の由来を証明するものであり、必ずしも追加的な温室効果ガス排出削減量の創出につながるものではない
・非化石証書はJEPXの口座で管理されるが、当該口座は現在のところ調達総量の管理用とされており、償却口座の開設については今後の検討対象である。
・非化石証書は所有権の対象となる有体物ではない
・非化石証書は取得者の属性や証書の種類に応じて転売の可否が異なり、財産的価値を有しているかの判断に差が生じる。

上記に伴い、非化石証書は以下の性質に応じて会計処理が異なる。
・非化石証書を第三者へ売却可能な場合:営利目的で所有し、売却予定である場合には棚卸資産に該当する。自社の温対法への報告書などのための所有である場合には無形固定資産又は投資その他の資産として資産計上を認める余地がある。
・非化石証書の環境価値を自社の財又はサービスの体協のために用いる場合:対象となる電気代の費用処理と合わせて非化石証書を費用化することが考えられる。この場合は取得時点で棚卸資産に該当する可能性がある。
・非化石証書を自社の温対法での報告などで利用するのみである場合:非化石証書を資産計上することは難しい。

6.コーポレートPPAについて

需要家企業による再生可能エネルギー由来の電力売買契約であるコーポレートPPAについても非化石証書を用いた環境価値取引の一部として検討がなされ、当該取引がリース取引の定義を満たすかどうかの検討がなされた。

合意された期間に渡り、貸手が借手に対して太陽光発電設備などの電力設備を使用収益する権利を与え、合意された使用料を支払う場合にはリース取引の定義を満たす可能性がある。この場合にはリース会計基準等の定めが適用となり、発生主義の考え方に基づいて発生時に損益として会計処理する可能性がある。

更に電力そのものと環境価値を切り離して環境価値のみを発電事業者から需要家に移転するバーチャルPPAの仕組みにおいては、PPA契約上の固定価格と実際需要価格との差金決済がデリバティブ取引に該当する可能性がある。この場合について、
・会計単位の区分
・デリバティブに該当するか否か
の観点で、デリバティブ取引への該当可否と会計処理を検討する必要があることについて明確にされた。


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