差別的ダブルスタンダード
韓国では「ネロナムブル」という言葉をよく使うらしい。
「私(ネ)がすればロマンス、他人(ナム)がすれば不倫」を略したものだ。
英語なら、ダブルスタンダード(二重基準)。ご都合主義の解釈や主張である。
ウクライナ戦争が連日、大きく報道されている。隣国に攻め入ったロシアの暴挙が非難を浴びるのは当然だが、ほかの国の行為はどうなのか。
米国が第2次大戦後に軍事行動を展開した地域を挙げてみる。
朝鮮、ベトナム、ドミニカ、レバノン、グレナダ、パナマ、湾岸戦争、ソマリア、旧ユーゴ、ハイチ、アフガニスタン、イラク、リビア、ウガンダ、シリア。
フランスは、インドシナ、アルジェリアの独立を妨げようとして戦争になった。
イスラエルは中東戦争で占領した地域に入植し、パレスチナ人を弾圧している。
旧ソ連はハンガリー、チェコ、アフガンに軍事介入した。
日本はかつて台湾、朝鮮を併合し、朝鮮では言語や文化も否定した。満州国をこしらえ、中国へ攻め込んだ。
これらをどう見るか。専制的な国や社会主義国の行為は許されないが、民主主義なら他国を攻めてよいのか。民主主義でない時代でも日本のやったことならよいのか。
ロシアでも選挙はあるが、プーチン政権の言論弾圧はすさまじい。では日本の政権は報道機関や市民の言論に圧力をかけてこなかったのか。
話を少し変えよう。
日本政府はウクライナからの避難民を積極的に受け入れつつある。
入管庁は90日間の短期滞在を認め、本人が希望すれば就労可能な「特定活動(1年間)」の在留資格に変更する。3か月超の在留資格なら住民登録の対象で、国民健康保険に加入できる。
一時滞在施設(ホテル)では、大人の場合、食費と別に生活費として1日1000円を支給。医療費、日本語教育費も負担する。退所時は1人16万円の一時金を支給する。
退所後も1日2400円の生活費を支給。医療費の自己負担分も6か月程度、国が負担する。ほかに日本財団からの生活費支援が3年間に最大300万円。独自の現金給付を行う自治体もある。
手厚い支援は悪くない。
けれどもアフガニスタン、イラク、シリア、イエメン、スーダンなど、ほかの国の戦争や内戦から逃げてきた人々には、どう対応してきたのか。
クーデターの起きた国も多い。近年ではミャンマー、マリ、エチオピア、マリ、チュニジア、ギニアなど。政治弾圧や宗教迫害のある国は、中国、ロシア、トルコ、インドなど数えきれない。
しかし日本は、難民をほとんど受け入れていない。2020年は3936人が難民申請したのに、認定は47人(0.5%)。同じ年にドイツは6万人以上、カナダ、フランス、米国も2万人近く認定した。
難民認定されずに在留資格を失うと、生活支援どころか、入管施設で劣悪な処遇を受け、命を失うケースもある。
白人なら丁重に扱い、アジア、アフリカ、中南米などの出身者は見下す。そういう人種差別の二重基準があるとしたら、恥ずかしくないか。
(2022年5月10日 京都保険医新聞コラム 鈍考急考29)