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余分な事務負担が多すぎる

 「ブルシット・ジョブ」という言葉がある。クソどうでもいい仕事という意味だ。
 提唱した米国の人類学者グレーバーは、主な例として、誰かを偉そうに見せる取り巻き、脅かしや欺きの要素を持つ宣伝・働きかけ、組織がやった業務の欠陥の尻ぬぐい、見せかけの書類作り、他人に仕事を割り当てるだけの人間――の5種類を挙げた。
 創造、生産、実際のサービスなどに結びつかない付随的・中間的なことをやらされたり、それで仕事をしているように見せたりしている人間が相当いるという皮肉だ。

 組織や社会の運営に一定のマネジメントは必要だが、余分な仕事はコストを膨らませる。それだけならまだしも、他者にも労力と時間を費やさせることがある。

 代表格は、役所へ提出する書類だろう。1つの案件でも紙が何枚にも分かれ、代表者名や住所を何度も書かせる。記載する事項や添付書類がむやみに多かったりする。
 医療・福祉の分野では、報酬体系がどんどん複雑怪奇になった。とりわけ介護保険・障害福祉サービスの処遇改善加算、医療の看護職員処遇改善評価料、ベースアップ評価料は、仕組みがややこしく、理解するだけでも大変だ。
 賃金総額を前年度と比較するといっても、正規公務員と違って職員はしばしば入れ替わり、勤務時間数も利用者の数も変動するので、計算は骨が折れる。数学が得意で、エクセルの関数と複数シートを使いこなせる人間がいないと、とてもできない。
 まさに、役人が頭の中で考えた制度。しかも職場環境や事業内容の要件をいろいろ付けて、ついでに政策誘導しようとするから、事業者に大きな事務負担を強いている(事務の増加に見返りはない)。

 その手のことは、様々な分野にある。国税庁の書類は記入スペースが異様に狭い。雇用保険の書類は記入欄が1文字ずつで書きにくい。
 研究者は、競争的研究費の申請書や、大学教員など次のポストの応募書類に労力を費やし、肝心の研究時間が奪われている。これは日本の研究力低下の大きな要因である。

 行政の職員はたいてい、書類の形式と、提出された書類の範囲内のつじつまを細かく見るだけ。実質的な問題の有無や、記載内容が実際通りかどうかは自分の責任にならないので、関心を払わない。

 医療法による立入調査も、書類を中心に重箱の隅をつつき、実際の医療が適切かどうかを見ないから、悪徳な病院でも見過ごしてしまう。
 書類の様式や調査方法を定めた規則を変えるのは手間がかかり、内部で提案する人がいても、なかなか通らない。
 オンライン提出なら多少は手間が省けるが、情報技術系の職種が作るのでカタカナ用語が多く、文章もわかりにくかったりする。一般人によるテスト入力を怠っているのか、使いにくいことが多い。

 しょーもない事務作業を強いている人たちには、他者の時間を奪い、生産性を下げているという自覚がない。
 外部から遠慮せずに意見を言おう。できれば地位の高い人に伝えるのがよい。辛抱してたら、よけいにしんどい。

(2024年10月10日 京都保険医新聞「鈍考急考」56)

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