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古民家鑑定士1:陰翳礼賛、伝建地区
はじめに…
古民家鑑定について、古民家の基礎知識をできるだけわかりやすく解説します。歴史的な背景や構造の特徴、伝統構法の各部位、などを学ぶことで、古民家の価値を正しく理解し、古民家鑑士の知識を得ることができます。伝統建築の魅力を再発見し、未来へと継承するための知識を身につけていきましょう。
■陰翳礼賛:谷崎潤一郎
住居を営むには、屋根という傘を広げて大地に日陰を落とし、その薄暗い陰翳の中に家造りをする。日本は陰翳を認め、それを利用することで陰翳の中でこそ生える芸術を作り上げ、それこそが日本古来の芸術の特徴だと主張。海外では、「陰翳礼賛」は日本文化を学ぶ教科書となっている。
もし、日本座敷を一つの墨絵に喩えるなら、障子は墨絵の最も淡い部分であり、床の間はもっとも濃い部分である。私は数寄を凝らした日本座敷の床の間を見る毎に、いかに日本人が陰翳の秘密を理解し、光と蔭との使い分けに巧妙であるかに感嘆する… 谷崎潤一郎「陰翳礼賛」中央公論より
■徒然草:吉田兼好
住まいを建てるなら夏を考えてつくりなさい。冬は住もうと思えばどこでも住めるが夏暑いのは耐えられない。庭に川を流す場合は、深いより、浅く流す方がはるかに涼しく感じる。室内の細かな部分を見るときには、吊すと陰ができる建具(蔀)より、引戸(遣戸)の方が明るく、部屋の天井を高くすると冬は寒く照明も暗くなる。新築の時に必要ないと思う部分も造っておくと目の保養にもなり、いざという時には役に立つことがあるかもしれない。
■銀の匙(さじ):中勘助
そのうちに普請(ふしん)がはじまった。木材をひいてきた馬や牛が垣根につながれているのを、伯母さんにおぶさってこわごわながら見に行く。
※普請とは、広く平等に資金…労力の提供を奉仕することであり、それを支えるのが地域扶助の精神であった。地域扶助の考えは「結(ゆい)」と呼ばれ、小さな集落では無償で手間と材料を出し住民総出で共同作業をおこなった。(田植えや茅葺き屋根の葺き替えなど)
※「結」の対義語は「やとふ」で「家問う」が原義。家々をまわって労力の提供を申し入れた。現在の「雇う」の元。
現代の生活様式は欧米化している。いまさら伝統的な古民家に住むことは出来ないかもしれないが、先人たちの様々な知恵や工夫を学び、どのような思いで家づくりをしたかを理解することは、日本人として意義があると思う。
■伝統的建造物群保存地区(伝建地区)
1975年の文化財保護法の改正により、「伝統的建造物群保存地区の制度」が発足し、城下町、宿場町、門前町など、全国各地に残る歴史的な集落・町並の保存が図られるようになった。市町村が「伝統的建造物群保存地区」を決定し、保存計画を定め、国が価値が高いと判断したものは「重要伝統的建造物群保存地区」に選定し、文化庁や教育委員会が指導助言をおこない、修景事業等に補助、税制優遇措置を設けるなどの支援を行っている。
例えば、萩市には四つの「重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)」があります。京都市、金沢市と並び全国で最も多いものです。覚えなくて良いですが、■堀内(ほりうち)武家住宅、■平安古(ひやこ)武家住宅、■浜崎(はまさき)廻船問屋、■佐々並(ささなみ)宿場町
築50年を超えると、伝統建築も在来工法も古民家の定義に入る。
1950年(建築基準法制定)以前の伝統構法の残存率は11%(1951年~1960年に建った建物の残存率が5%)伝統構法の耐久性が高いと推測される。
■古民家1のポイント
古民家を先人の残した文章から推察すると、
1.日本家屋の屋根は傘のように大きい。
2.室内は薄暗く、墨絵のような濃淡のある空間。
3.古民家とは、夏を快適に過ごす住まい。
4.住宅建設は地域の公共工事。建築工事は「普請」といい、
「結」という地域扶助の精神で建てられる。
5.伝統的建造物群保存地区(伝建地区)は、1975年(昭和50年)の文化財保護法の改正によてうまれた制度。
6.築50年を超えると、伝統建築も在来工法も古民家の定義に入る。
■次回は、古民家の定義と古民家のメリット、デメリット
古民家の調査と再築:一般社団法人住まい教育推進協会
古民家鑑士は誰でも受験できますが、この本を購入することが必要です。
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