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古材鑑定士1:木材の基礎知識
はじめに…
古材鑑定について、古材鑑定の基礎知識をできるだけわかりやすく解説します。木材の基礎知識、古材の強度、古民家再生などを学ぶことで、古材の価値を正しく理解し、古材鑑定士の知識を得ることができます。伝統建築の魅力を再発見し、未来へと継承するための知識を身につけていきましょう。
木材の基礎知識
■年輪について
木材の年輪をよく見ると、色の白い部分と濃い部分が何層にも輪になっているのがわかる。春先から夏にかけて成長した色の白い柔らかい部分を「春材部」(しゅんざいぶ)といい、秋から冬に成長した濃い色の部分を「秋材部」(しゅうざいぶ)という。中心部分は、杉の場合でいうと赤黒くなっている部分を「心材・芯材」(しんざい)あるいは「赤身」といい、外周部の白い部分を「辺材」(へんざい)あるいは「白太」(しらた)という。
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■木材の組織
1.樹心:髄。薄い細胞壁を持つ柔細胞
2.心材・芯材:赤身。水分少なく、細胞膜固く、樹脂多い、耐腐朽性大
3.辺材:白太。淡色の外周部分、水分多く乾湿による容積変化大
4.形成層:樹皮の内側で細胞分裂により成長する層
5.樹皮
■木材の主要成分
木材は多糖類(デンプン)のセルロースが45%、ヘミセルロースが広葉樹30%、針葉樹20%、リグニンが広葉樹約20%、針葉樹30%を主成分として、副成分としてテルペン、タンニン、リグナンなどを含む、複雑で緻密で強靱な構造で水分を含み構成されている。
長鎖状のセルロースは木材に強さとしなやかさを、網目状のリグニンは細胞同士を密着させながら硬さや曲げ強さを生み、分岐状のヘミセルロースはセルロースとリグニンを結びつける機能を受け持っている。これらの成分は、自然界では化学分解の難しい成分で難分解成分と呼ばれる。
■木表、木裏
丸太の外側に面する部分を「木表」、中心側を「木裏」という。
木材は乾燥により、木表側に収縮する。特に年輪に沿った方向への収縮が大きく、表面に収縮による割れがおきる。このため、真壁造りの和室の柱などは、壁で見えなくなる面に収縮割れを集中させるための「背割り」を入れ、他の面に割れをおこさせないようにする。
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■乾燥
構造用木材はなるべく乾燥したものを用いる。平均含水率は20%以下とする。(建築基準法で決まっている)乾燥の目的は、機械的強さの増進、使用後の収縮、干割れ(ひわれ)、反り・狂い・腐朽の防止、塗料・注入剤などの効果増進など。乾燥することで重量が減り、運搬や作業も軽減される。
木材の水分は、液体として見ることが可能な「自由水」と、木材の細胞内にある「結合水」に分類される。先に自由水が蒸発して乾燥が進む。細胞内の結合水が蒸発を始めるときを「繊維飽和点」と呼び、このときの含水率は約30%。気候で変動し、約12%~17%まで乾燥が進むと木材性能は安定する。大気中の温湿度と平衡して一定の含水率になり「平衡含水率」と呼ぶ。一般的に、木材の強度試験をする際、含水率15%の材を使用し、15%を「気乾含水率」と呼ぶ。
含水率が繊維飽和点(含水率30%)より大きな場合の強度はほぼ一定であるが、繊維飽和点(含水率30%)以下の強度は乾燥とともに増大する。
1.人工乾燥処理製材(KD材)の含水率は、
温湿度環境に対応した平均含水率(約10%~20%)が品目ごとに定められている。人工乾燥材(KD材)の含水率基準は、日本農林規格(JAS)で25%から15%以下と定められています。※人工乾燥では15%以下の含水率まで強制乾燥させることができます。
2.天然乾燥処理製材(AD材)(自然乾燥材)の含水率は、
生材状態から、柱が収縮し始める含水率30%以下とさだめられる。
※天然乾燥材の含水率は、一般的に20~30%程度まで乾燥させることができます。現在でも天然乾燥は時間と手間(床材なら40日~ほぼ2ヶ月)がかかります。しかし、建築材料(羽目板等)にした時に、
①狂いが少ない
②強度が増す
③クセが抜けて品質が安定する
④木が本来持つ脂分が残るため木材本来の独特の色艶が出てくる
⑤木の自然な香りを持つ
ー参考ー
※JAS規格では、構造用製材と造作用製材の含水率は20%以下、枠組壁工法構造用製材は19%以下、集成材は15%以下と定められています。
※財)日本住宅・木材技術センターでは、建築用針葉樹材(乾燥材)の含水率基準を策定しており、柱類は20%以下(ただし、スギ、米ツガは25%以下)、敷居、鴨居、長押などは18%以下、床板、内装壁材などは15%以下10%以上と定められています。
■含水率と伸縮
<<含水状態の区分>>
1.飽和含水状態:含水率30%以上。細胞腔には自由水、細胞膜には結合水が満たされた状態
2.繊維飽和点:含水率約30%、細胞腔には水がなく、細胞膜は飽水の状態
3.気乾状態:含水率13%~17%、細胞膜に大気中で乾燥しない若干の水を残した状態
4.全(絶)乾状態:含水率0%、細胞腔、細胞膜ともに水はない
<<伸縮について>>
1.含水率が繊維飽和点(30%)以上では伸縮はおこらない。
繊維飽和点未満では、含水率の増減にほぼ比例して伸縮する。
2.比重の大きい材ほど細胞膜が厚く容積変化は大きい。
3.樹幹(繊維)方向の伸縮が最も小さく最大0.1~0.3%、年輪の半径方向(柾目)は樹幹方向の5~10倍、年輪の円周方向(板目)は樹幹方向の10~20倍となる。
<<築30年経過した在来工法の住宅の構造材の含水率を調査>>
含水率が高かったのは土台で、約16~17%、柱は約12~13%、梁は約11~12%、小屋束は12%程度だった。
※木材は経年変化と共に乾燥はある程度進むので、建築時に多少含水率が高かったとしても建築中、完成後も乾燥が進み、伴って強度も上昇する。
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■燃焼について
木材はセルロースやリグニンなどで構成されている。
200℃付近まで温度が上昇すると熱分解を開始し、260℃を越えると熱分解の速度が急速に高まる。この260℃が木材の火災危険温度。木材は燃焼時に炭化層を形成するが、炭化層は断熱層となり燃焼速度を緩和する。
約160℃:可燃ガスの発生
約260℃:口火を近づけると引火(出火危険温度)
約450℃:口火なしで発火する(発火点)
■芯持ち材・芯去り材
「芯持材」:心材を中心に製材した樹心を持った材
四面が板目で節もでるが、強度があり、加重のかかるところに使用する
「芯去り材」:樹心をもたない材
乾燥しても割れが入りにくく、柾目の面が美しいため、見栄えの大事な場所に使用する。
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■柾目と板目
木取り(きどり)の仕方により、板の表面に年輪が柾目や板目になって現れる。年輪に対し、直角に挽いた面を「柾目」(まさめ)といい木目が真っ直ぐな縦縞となる。「板目」は、年輪に接する方向に切るため、木目は山形や等高線状の不規則なものとなる。
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■生節(いきぶし)、死節(しにぶし)、無節(むぶし)
1.生節(いきぶし)
:枝が生きたまま包み込まれたもの、木目に溶け込んでいる
2.死節(しにぶし)
:枝が枯れてから包み込まれたもの、死節は抜け落ちることがある。その場合は、木片を埋めて補修する
3.無節(むぶし)
全く節のない材。高級品
※木に枝があるように、木材に節があることも当たり前で、節があっても強度が劣る訳ではない。節は固く周囲との収縮率が違うので、乾燥によりひび割れが生じる。
■ヤニ
樹木がヤニを出すのは自分自身の身を守るためで、雨の多い土地に育つ木ほどヤニが多いといわれる。ヤニが多いことで知られる松は材に粘りと曲げに対して強度があるため、梁材に使用される。
■調湿作用
木材は周囲の湿度に反応して、空気中の水分を吸い込んだり吐き出したりする。梅雨時期の湿気が高いときは、空気中の水分を取り込み、逆に、空気が乾燥している冬場は、湿気を吐き出す。
木材の持つ優れた調湿機能を発揮させるためには、構造材を覆い隠す大壁構造よりも、構造材が表しのままの真壁構造の方が優れている。
■断熱性
木材の内部は多孔質で、その内部に多くの空気層を持つことで、優れた断熱材となる。そのため、触った感触が良く、夏は冷たく、冬は暖かく感じる。
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■元口と末口
丸太は根の方を元口(もとくち)、枝先の方を末口(すえくち)といい、丸太材の場合は、細い部分の直径を測り表示する。
■衝撃吸収性
木材は、鉄やコンクリートに比べ軟らかく、衝撃を吸収する。木材は無数の細胞内に空気を含むことで、熱を伝えにくい構造であり、また衝撃も吸収する。大理石に比べて2~3倍の衝撃吸収性がある。
■吸音性
木材は、吸音性が高く、音を適度に吸音する。木材を使った部屋は音が適度に反射して適度に響くため音が聞きやすいことから、古くから劇場やホール、音楽室などでは、音響効果を高めるために木材が仕上げ材として利用されている。
■加工性
木材は切ったり、削ったりという加工がしやすい。建築の構造材だけでなく、様々なものに使われている。
■手触り、香り
木材は表面に弾力があり、温かみを感じ、滑りにくく、独特の手触りがある親しみやすい素材。また樹種ごとに独特の木目や色合いを持ち、それぞれの樹種の持つ強度、色合いにより、様々な表情や香りがある。また、木材の持つ独特の香りには防虫の効果や精神安定の効果がある。
■紫外線
木材は、紫外線をよく吸収するため、木材から反射する光にはほとんど紫外線が含まれない。紫外線の反射が少なければ、目に与える刺激も小さくなることから、木材は目に優しい材料であるといえる。
■健康に良い
木材を多く使用している施設では、インフルエンザの罹患や転んで骨折する例が少ないという調査結果がでている。1987年に静岡大学農学部のおこなったマウス実験で、木の巣箱か金属やコンクリートの巣箱より、マウスが長生きする結果が出ている。島根大学総合理工学部の論文で、木造住宅より、コンクリート住宅に暮らす人の方が約9年も早死にするという衝撃的データもある。木が健康にもいいことは明らかである。
■杢(もく)
杢とは木目の文様のこと。装飾性の高いものを杢と呼び、様々な種類がある。
杢の例:杢目(笹状)
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■木材の長所
木材の建築での利用上の短所とは腐りやすい、燃えやすい、大きな部材が調達しにくい、材料にバラツキが出るなどがあげられる。
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■古材鑑定士1のポイント
木は昔から人の生活にかけがえのない資材であったが、その木自体のことを知っているとは言いがたい。木材についての基礎を理解する。
1.木の構造
2.木材の特徴
3.人体への影響
最後に…
ヨーロッパは石造りの建物が多いので石の文化、日本は木の文化と言われる。日本人は長い間木に触れて、木からの恩恵を沢山受けてきた。もしかするとDNAの中に木が好きと記録されているのかもしれない。「樹」は伐採されて「木」となる。木の持つ優しい風合いや調湿作用、経年変化で味わい深く飴色に変化する様は、まるで生きているように感じてしまう。
■次回は、木材の強度
古民家の調査と再築:一般社団法人住まい教育推進協会
古民家鑑士は誰でも受験できますが、この本を購入することが必要です。
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