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低コスト耐震改修(A工法)の事例を、調査士目線で。在来木造2階建(1979年竣工:築45年)

はじめに…

一般在来工法の耐震補強を安価に行う方法(A工法)があります。実験データに基づき認可されている方法です。(愛知建築地災害軽減システム研究協議会)天井と床を壊さない耐震補強なので安価です。リフォーム工事と一緒に行うのが良いと思います。

今回は、市の無料耐震診断制度を利用し、低コストに耐震改修を実施した事例です。耐震診断は精密診断法1(保有耐力計算法)にて行いました。


0.事前調査

■耐震診断のバイブル(木造住宅の耐震診断と補強方法)

耐震診断をする人は、必ずこの本を何度も読みます。

■耐震診断をする前に、建物の竣工年から建物状況を推察します。

建築基準法は新たな地震被害が発生すると、その被害原因を検証し改正が繰り返されてきました。我が国の建築法規は、西暦701年の大宝律令で定められた「他人の家をのぞき見る楼閣の建築禁止」が最初だと言われています。

■診断する建物が、次の建築歴史の中でどの位置にあるかを調べます。

◎大正08年(1919年)【市街地建築物法
が制定され、建築基準法の前身。
◯大正12年(1923年)<関東大震災M7.9
◯昭和16年(1941年~1946年)第二次世界大戦、資材不足、法律は休眠状態
◎昭和25年(1950年)【建築基準法制定
地震力に対する必要壁量が制定。
◯昭和43年(1968年)<十勝沖地震M7.9
◎昭和46年(1971年)【基準法改正】
木造基礎は鉄筋コンクリート造の布基礎定め。
◯昭和53年(1978年)<宮城県沖地震M7.9

<<<1979年5月竣工の診断建物は、この時代の建築法規の下で竣工>>
宮城県沖地震の翌年の建物で、基礎はコンクリートで、基準法制定後で新耐震基準の前なので、一応の耐力はあるだろうが、十分なものではないことが推定できます。この情報を頭に入れて現地を調査します。

◎昭和56年(1981年)【新耐震基準
必要壁量改定、壁種類と倍率改定
◯平成07年(1995年)<阪神大震災M7.3
◎平成12年(2000年)【住宅品質確保促進法制定】柱や筋交い端部は金物による接合が定められる。偏心の検討。(N値計算:耐力壁周辺の柱頭柱脚接合部の検証法、4分割法:耐力壁の適切配置の検証)
◎平成16年(2004年)【木造住宅の耐震診断と補強方法】
◯平成17年(2005年)構造計算書偽装事件
(姉歯事件)
◎平成19年(2007年)【瑕疵担保責任履行法公布】
◯平成23年(2011年)<東日本大震災M9.0
◎平成24年(2012年)【木造住宅の耐震診断と補強方法の改訂
◯平成28年(2016年)<熊本地震M7.3,M6.5
のような変遷があります。

■地盤をネットで調査します。

住所から地形や地質、標高を調べ、揺れやすさや液状化の可能性、土砂災害の可能性をしらべ、土地が、どの地盤に該当するか判断します。
第1種地盤(地盤が良い)
第2種地盤(地盤が普通)
第3種地盤(地盤が悪い)必要耐力を1.5倍します。

■近隣状況を歩いて調べます。

:地名から土地の歴史を判断、し地盤の善し悪しを判断材料にする。
(水に関係する地名がついているとか)
:隣地の塀にひび割れがないか、前面道路に陥没やひび割れがないか
:近くに大きな木がある場所は、大木が長年の風雪に耐えられるだけの良い地盤であったと考えられます。
:神社仏閣の近くとか、文化財がでるところは、経験的にも地盤が良い。先人の目は確かです。
:竹があるところは、水が多いともいいます。植生で判断。
:周囲に擁壁などがあれば、劣化の具合は?
:砂質土であれば、液状化の心配。粘性土であれば、圧密沈下の心配。
:高低差や、向きや景色などの立地から、家相的な判断もあります。

1.現地調査を実施、図面を作成

配置図
立面図

◼️建物調査
:築後45年経過しているが、管理状態は良好で目立つ劣化はない。
:周辺高低差無く、丘陵地で地盤は比較的良い。
:建物内部は土塗壁(7~9cm)、外部はサイディング縦張。
:小屋裏に羽子板ボルト、かすがい、火打ち、雲筋違いが一部確認できた。
:床は令和元年の居室リフォームの際、合板打ちにより耐力を上げている。
:床下は、乾燥しており、蟻害や腐朽はみられない。
:屋根からの雨漏りは無く、瓦の固定もしっかりしている。
:浴室裏側にひび割れ補修跡が確認できるが、構造上問題無し。
:健全な鉄筋コンクリート基礎。
:偏心率0.17(2階Y方向)他は<0.15

2.耐震診断(精密診断法1)保有耐力診断法

■耐震診断ソフトウェア(主要なソフトを紹介致します)

1Wee:日本建築防災協会(値段が安いので手軽)

2.達人耐震R1:達人塾 (低コストA工法の改修工事の提案がし易い)

3.ホームズ耐震Pro(低コスト改修提案、ビジュアルなプレゼンが出来る)

私は、ホームズ耐震Proを使っています。達人耐震R1も良いと思います。

■耐震設計の基本理念は、

■極めてまれに発生する「震度6強程度の大地震」に対しては、ある程度の損傷を許容するが、倒壊せず人命と財産を守ること。
■耐震診断をすると、評価点がでます。次のように判断されます。

(現状評点0.83:倒壊する可能性がある)

■耐震診断報告書(山口県書式) ※計算プログラムは省略

市によって、毎年、無料で耐震診断してもらえる精度があります。これが、その報告書式です。(市に登録してある診断員が行います)通常は、10万~15万程度の費用だと思います。又、耐震改修に係る費用の80% 上限100万円の補助金制度あります。受付は5月半ばからで、お正月に地震があったせいか、昨年は、早く埋まりました。尚、昭和56年6月1日以降に増築が行われている場合は、対象外となります。新耐震後の建物は、補助の対象外となっています。

とはいえ、1981年(昭和56年)から2000年の品格法が出るまでの間に建築された建物は、耐震等級1は、あるはずですが、金物の設置基準が定まっていない時期だったので、耐震診断をお勧め致します。

一方、2000年以降に建築された建物は、耐震等級を確認しましょう。耐震等級1は、基準法レベルでまずまず。耐震等級2は、1の1.25倍強く、まず大丈夫です。耐震等級3であれば、1の1.5倍強く、熊本地震規模でも、一応安心です。

■総合評価(現状)評価は0.83<1 大地震時に倒壊する可能性。

評価は0.83<1 大地震時に倒壊する可能性がある。
X方向の揺れに対し、倒壊する可能性がある。

3.補強計画提案

(補強して評点1.11:一応倒壊しない。)

今回、トイレと洗面、お風呂のリフォームを予定します。

〇トイレは、壁のみ張り替え、手摺取付(高齢者対応)
〇洗面室は、洗面化粧台取替(高齢者対応)
〇浴室は、タイル浴槽をユニットバスに取替(高齢者対応)

その際に、耐震補強します。
:トイレ内部の壁を合板補強(A-334)します。
:2階の階段上の壁を合板補強(A-334)、金物を取り付けます。

ーーー 今回のポイントです。ーーー

通常の耐震補強工事では、床や壁を撤去して行うため費用がかさみますので、天井と床を残したまま、壁だけの補強工事で安価な耐震改修を考えていますので、次に示すA-334(A工法)を採用を考え、ホームズにこの壁を用いた耐震設計ができるように、壁を登録します。これは、達人塾(低コスト耐震補強)のA工法です。

真壁A-334(A工法の中のひとつ)

※コード228に登録した「A334の壁」

(真壁仕様、基準耐力5kN/m)

■補強計画提案書(山口県書式) ※計算プログラムは省略

■補強計画書

■総合評価(補強後)評価は1.11>1:一応倒壊しない。

評価は1.11>1:一応倒壊しない。
補強した結果、一応倒壊しない。

築後45年の木造軸組構法の2階建て住宅です。管理状態は比較的良く令和1年に洋間とリビング、台所をリフォームされていたため、リフォーム済み以外の部分での耐震補強を考えました。本提案は、トイレの壁改修にて1以上となるミニマムな提案ですが、洗面や浴室をあわせて改修すると1.5近くなる提案も致しました。事例紹介にご承諾いただき、ありがとうございました。

以上、報告書を抜粋して紹介させていただきました。資料として他に、ヒアリングシート現地調査写真、計算プログラム、地盤マップがあります。今回の無料耐震診断は、建築士会からの依頼で行いました。報告後、耐震補強を兼ねて、トイレ、浴室、洗面所のリフォーム工事となりました。

以上です。



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