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古材鑑定士5:木材の乾燥方法
はじめに…
古材鑑定について、古材鑑定の基礎知識をできるだけわかりやすく解説します。木材の基礎知識、古材の強度、古民家再生などを学ぶことで、古材の価値を正しく理解し、古材鑑定士の知識を得ることができます。伝統建築の魅力を再発見し、未来へと継承するための知識を身につけていきましょう。
<< 木材の乾燥方法 >>
木材はなるべく乾燥させて使用しないと、木表側に反ることを前回学びました。含水率30%以下になると、材が収縮を始め、自然環境の下、約12~17%まで乾燥が進むと木材性能は安定する。しかし、伐採したての樹木の含水率は概ね100%。人工乾燥処理製材の含水率基準は10~20%以下、天然乾燥処理製材で30%以下が基準となっています。どのようにして乾燥させるかを学びます。
■強制乾燥材(KD材)(Kiln Dry)
「KD材」とは、人工的に木材を乾燥させた、「強制乾燥材」あるいは「人工乾燥材」のこと。伐採後短期間で建築構造材として利用するために、「蒸気乾燥」(じょうきかんそう)や「燻煙乾燥」(くんえんかんそう)などの方法で人工的に乾燥をおこなう。木材表面の材面割れを施工者はクレームと考える傾向が強く、木材表面に割れがおきにくいことから最近の住宅でよく使用される。
蒸気乾燥(じょうきかんそう)
乾燥方法は様々な種類があるが、「蒸気乾燥」は最も一般的におこなわれている乾燥方法で、木材に高温の蒸気を当て、木材内部の温度を上げて、温度が上がったところで蒸気を止め、木材内部の水を外に出す乾燥方法。表面に割れを起こしにくく安価で安定した性能を発揮する。デメリットは蒸気を媒体として熱を木材に伝えるため、厚みのある材は乾燥するのが難しく、含水率の差木材を木材を一緒に蒸気乾燥すると、過乾燥と未乾燥の材ができる。
燻煙乾燥(くんえんかんそう)
乾燥と防虫効果を高める方法。燻煙乾燥は熱源帯として蒸気では無く炭素(煤)(すす)を熱媒体とする方法。炭素は蒸気より熱伝導が高く、炭素である煤の成分が木に染み込み防虫防黴(ぼうちゅうぼうび)の効果がある。燻煙乾燥されたものは内部応力が取れ、狂いやそりの出にくい寸法的にも非常に安定した木材になる。
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木材を高温で乾燥させるデメリット
2000年に「住宅瑕疵担保履行法」が施行されて、杉の芯持ち材では120℃の「高温乾燥」が実施された。しかし、木材の主要成分であるリグニンの軟化温度は85℃のため、85℃異常の高温でリグニンを軟化させると木の組織結合を破壊し、強度の成分を失う可能性が高い。また、高温処理でセルロースも糖分変化してしまうため、耐蟻性を落とす可能性も高い。高温での乾燥が材に影響を与えることが知られ、近年は50℃という低温で処理をする「低温乾燥」に変わってきている。
■自然乾燥材(AD材)(Air Dry)
AD材とは、天日干し(てんぴぼし)をした材のこと。「天然乾燥材」とも呼ばれる。「自然乾燥」は、木材内部より表面の乾燥が早く進むことで、表面に年輪方向の引っ張り応力が発生し、割れが発生する。この割れは強度には影響しないが木材は乾燥して強くなるときに割れが出るということを説明しないと消費者は強度低下していると錯誤し、クレームになる場合がある。また、「グリーン材」と呼ばれるものがあるが、これは、製材のみで乾燥していない材を指し、自然乾燥材とは別物である。表面の割れは「背割り」と呼ばれる乾燥前に柱の見えなくなる部分に故意に割れ目を作っておくことで解決出来る。また、自然乾燥材は、色艶や香りを損なわない木材に仕上がるという利点がある。乾燥方法として割れが発生しにくいと言われる、冬期の新月直前に伐採する「新月伐採」や、伐採した木の水分を抜くために葉を残したまま乾燥させてから山から下ろす「葉枯らし乾燥」など様々な方法が各地に残っている。材全体の乾燥を調整するために、水中に木材を入れて乾燥させる「水中乾燥」なども最近注目を集めている。
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※「新月伐採」とは、新月(月の出ていない時期)に木を伐採して、葉枯らし乾燥させる方法です。月齢伐採とも呼ばれ、良質な木材を生産するために古くから行われてきた伝統的な方法です。
■集成材
集成材は、いくつかの人工乾燥された「ラミナ」と呼ばれる木片を縦方向は、「フィンガージョイント」で接着剤を用いて接合し、横方向は、接着剤を塗布して圧力をかけて張り合わせて1本の木材にする。見える部分に使用する剤は、さらに表面に無垢材を大根の桂むきのように薄くそいだ紙のような単板(たんぱん)を貼り付ける。工業製品のため、品質のばらつきがなく、構造計算が簡単なので大きな建築物やハウスメーカーの住宅などでよく使用される。
※ラミナ(Laminar)とは、集成材を構成する挽き板あるいは小角材のピースのことです。
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■最後に…
いずれの材料も一長一短あるだろうが、住宅の耐久性という視点で考えてみるなら、木材の長所である吸放湿性能、粘りなどの復元力、実績を総合し、
自然乾燥材を選択すべきだろう。
人工乾燥材と自然乾燥材のサンプルを準備して、それぞれドリルで孔を開けてその木くずを見てもらうと人工乾燥材の木くずに比べ自然乾燥材の木くずは長く木材の繊維が破壊されずに粘りのあることが理解できる。
■古材鑑定士5のポイント
「強制乾燥」あるいは「人工乾燥」された木材を「KD」(Kiln Dry)材といい、「自然乾燥」された木材を「AD」(Air Dry)材という。また、断面寸法の小さい木材(板材)を接着剤で再構成して作られる木質材料を「集成材」という。建築の構造材として長期耐久性を持つのは何かを考える。
※「キルン(Kiln)」は英語で、「釜」や「炉」を意味する言葉です。 ウイスキーの蒸溜所におけるキルンとは、発芽した大麦を乾燥させるための設備のことで、「乾燥塔」とも呼ばれます。
■次回は、 古材の強度
古民家の調査と再築:一般社団法人住まい教育推進協会
古民家鑑士は誰でも受験できますが、この本を購入することが必要です。
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