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木造「耐震診断ツール」と簡易構造計算による検証
はじめに…
最近、地震を気にされている方が増えていると感じます。現にこの物件も耐震改修されました。私が実際に使用している「耐震診断ツール」を紹介します。国交省の告示第184号に基づくものです。根拠を持っての診断は、信用され自信に繋がります。
※力の単位は、N(ニュートン)が標準です。1N=100g、1KN=100Kgです。
建築技術者等が「マイホーム耐震化の的確なアドバイス」を行えるように工夫された「耐震診断ツール」です。「手軽さ」と「精度」を重視しています。震度7の大地震が来たときに、倒壊しないかの検討です。
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■1.次の2階建の建物を検証してみます。
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※壁倍率について
壁倍率は、耐力壁の強さを数値化したものです。壁倍率が大きいほど、耐力が大きな壁です。壁倍率1の場合、1mの長さで1.96KN(196Kgf)の耐力があります。壁倍率2はその倍です。
・9mmの鉄筋による筋交い ⇒ 1.0
・1.5cm×9.0cmの木材による筋交い ⇒ 1.0
・3.0cm×9.0cmの木材による筋交い ⇒ 1.5(採用:たすき掛けで3.0)
・4.5cm×9.0cmの木材による筋交い ⇒ 2.0
・9.0cm×9.0cmの木材による筋交い ⇒ 3.0
・※土塗壁 ⇒ 0.5(土塗壁は筋交いでない)、両面塗で1.0
・構造用合板(t=5mm以上) ⇒ 2.5
・パーティクルボード ⇒ 2.5
・石膏ボード ⇒ 0.9
・構造用石膏ボードA種 ⇒ 1.7(石膏ボードを3倍に強化したもの)
・構造用石膏ボードB種 ⇒ 1.2(石膏ボードを2倍に強化したもの)
:組み合わせ足し算可能。例えば、筋交いを、たすき掛け(×印に配置)した場合、壁倍率は2倍です。ただし、9cm角の筋交いは、5を超えても壁倍率5.0とします。
※平均壁倍率とは、
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1.地震力を計算します。(1階についての検討)
1.地震力が最も大きく作用する1階について検討します。1階は2階以上も支えており重量が大きいため、倒壊する場合は1階がほとんどです。1階の地震力を割り出すことは重要で、ベースシアー(基本せん断力)といいます。
2階建てなので、大地震時に1㎡あたり1.4KN(140Kgf)の地震力がかかります。1階の床面積は54.66㎡ですので、1階の地震力は1.4×54.66=76.5KN(7.65トン)となります。X方向、Y方向共にかかります。
※1階の地震力は76.5KN(7.65トン)X方向、Y方向共
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2.保有耐力を計算します。
耐力壁平均壁倍率(α)は、α=3
(筋違3cm×9cmたすき掛け)を採用。
耐力壁の総長さは、図示により、
X方向10M、Y方向14Mです。
■X方向の保有耐力は、
2KN×3(平均壁倍率)*10m*0.8(老朽化考慮)+0.25(雑壁が地震力に対し25%の耐力を持つ)×76.5(地震力)=67.1KN(×)
∴76.5KNの地震力に対し、X方向67.1KNでは9.4KN(940Kgf)の耐力不足。→補強が必要です。
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■Y方向の保有耐力は、
2×3×14M×0.8+0.25×76.5=86.3KN(○)
∴76.5KNの地震力に対し、Y方向86.3KNあるので足りています。
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3.検討結果、X方向の補強計画が必要。耐力壁を追加しOK!
X方向67.1KNでは9.4KNの耐力不足の状態なので、壁倍率α=3の耐力壁を1.82m追加します。2KN×壁倍率3×1.82m=10.92KNの耐力向上(新規なので老朽化80%に減は不要)、耐力壁追加により、X方向の保有耐力は78.02KNとなり、地震力を上回りました。
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■2.「耐震診断ツール」の使い方は終了ですが、簡易構造計算でこの結果が安心して使えるのか検証してみます。
1.建物重量を概算する(重要)地震力は建物重量に比例します。
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1階の床面積が54.66㎡、2階の床面積が25.68㎡、屋根は軽い材料。
2階の重量w2:1.5×25.68=38.52KN
1階の重量w1:1.5×25.68+1.5×54.66=120.51KN
∴建物重量はw1+w2=159.03KN(15.9トン)と概算されます。
2.構造計算で検討します。
■許容応力度計算(ルート1,ルート2)1次設計:中地震時
中地震時(震度5)に、建物は変形しても損傷せずに元に戻るかを検討。弾性設計。
中地震力Qun=Z・Rt・Ai・C0・W
Z:地震地域係数 0.7、0.8、0.9、1.0
(東京は1.0、山口は0.8、沖縄は0.7)
Rt:振動特性係数 木造2階建ては1.0
Ai:地震層剪断力係数の高さ方向の分布係数
1階は1.0,2階は1.2
C0:標準剪断力係数 0.2(200gal)※1次設計
W:その階から上の重さ
中地震力Qun
=Z(1)×Rt(1)×Ai(1)×Co(0.2)×W(159.03)
=0.2×159.03=31.86KN
<中地震時に31.86KNの地震力がかかる>
中地震時の地震力Qun31.86KNに対し、保有耐力(X方向78.02KN、Y方向86.3KN)が上まわっているので、
<中地震時に損傷せずに元に戻る>
■保有水平耐力計算(ルート3)2次設計:大地震時
大地震動(震度7程度)に対する検証(極めて稀な地震に、損傷を許容し、倒壊させない)※損傷を許容して地震エネルギーを吸収し、倒壊だけは回避する計算法。弾塑性設計。
大地震力Qun=Ds・Fes・Qud
Qun(必要保有水平耐力)
=Ds・Fes・(Z・Rt・Ai・C0・W)
DS:構造特性係数
(偏心、剛性バランスに問題ないものは1.0)
C0:標準剪断力 1.0(1000gal)※2次設計
大地震力Qud=Ds(0.4)×Fes(1)×Z(1)×Rt(1)×Ai(1)×Co(1.0)×W(159.03)
=0.4×W(159.03)=63.61KN
<大地震時に63.61KNの地震力がかかる>
大地震時の地震力Qun63.61KNに対し、保有耐力(X方向78.02KN、Y方向86.3KN)が上まわっているので、
<大地震時に損傷はあっても、倒壊することはない>
■3.検証結果、
「耐震診断ツール」で、大地震時地震力76.5KNと算定されます。簡易構造計算では、中地震時に31.86KN、大地震時に63.61KNと算定されます。大地震時において近似的な数値であり、中地震時に損傷せず、大地震時に倒壊しないという、簡易チェックとして十分使用できるものと判断できます。
最後に…
今回取り上げませんでしたが、施行不良や腐朽、老朽化の程度によっては無視できないこともありますので注意が必要です。
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