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『ワタシも飛べるはず』

ワタシはマリー。

最初はお家があったわ。
おじいさんと一緒。
やさしくておっとりしていて
本当にいい人だった。

でも、ある日おじいさんが歩けなくなると、
おじいさんは誰かとどこかに行ってしまった。

それから、ひとりぼっち。
たぶん何日かひとりだったわ。

雷雨の日だったと思うけれど、
ずいぶん頼りがいのありそうな人が来て
ワタシの体をゆっくり撫でると、
抱きかかえて運んでくれた。

どれくらい食べていなかったかしら。
眠くてお腹が空いて、どうしようもなかったけれど、
温かいタオルの敷かれた箱の中で、
お腹一杯で久しぶりのしあわせな眠りについたわ。

空を見たい。
きっと、体が元気になったのね。
反対側の壁から見える窓の外を
ずっと眺めていたわ。

白い、何かが飛んでいた。
空を泳いでいた。

よっぽどワタシが外を見ていたのね。
頼りがいのある人が、
ワタシを散歩に連れて出してくれた。
久しぶりの外の匂い。
色んな匂いが一気に鼻に入り込んできて、
そのすべてがワタシを満たした。

上を見上げる。
おじいさんの声が聞こえた気がした。
それから、またあの白い何か。

「あれかい?あれはハクチョウだよ」
頼りがいのある人が、ワタシに言った。

とてもきれいで、目を奪われた。
そして思った。
ワタシも空を飛びたい。

その日から毎日外にお散歩して、
ハクチョウを眺めていた。
毎日毎日、眺めていた。

「そんなに見られたら、恥ずかしいわ」
ある日、ワタシはハクチョウに話しかけられた。
「あなたも飛びたいの?」
ハクチョウはワタシにそう尋ねた。
ワタシは飛びたいと答えた。

「きっと、飛べるわよ」
ハクチョウはワタシに言った。
「信じれば、飛べるわよ」

もしも空を飛べたなら、
ワタシはおじいさんに会えるかもしれない。

ワタシはその日から、空を飛べるようにお願いをした。

「ワタシも飛べるはず」

ハクチョウが他の空に旅立ってからも、
ワタシは信じて疑わなかった。

「ワタシも飛べるはず」

そしてもう一度、おじいさんと同じベッドで眠って、
同じテーブルで朝ごはんを食べて、
同じチェアーでテレビを見るの。
やさしい手の匂いを嗅ぎながら。

ワタシも飛べるはず。
きっと、ワタシも飛べるはず。


※ 原画はInstagramにて公開中です!
https://instagram.com/happyuppersmile

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