相づち

先日、高速バスで出張に行った。
その帰りの車中で気づいたことがある。

私の隣の座席には誰も座らなかったため、一人でのんびりバスの旅を楽しめた。途中まで。
というのは、サービスエリアでの休憩の後、通路を挟んだ座席に座る女性2人が、大声で話し始めたせいだ。

60代くらいのおばさまと、女子高生。
2人は親子ではなく、初対面の他人同士。たまたま、他の乗客が休憩時間中、運転手に予約の事で問合せをしていたのをきっかけに、おばさまの方から話しかけていた。

その後、2人はプライベートな話を始めた。おばさまがヨーロッパの国々を旅行した話、女子高生がこの4月から大学進学で一人暮らしを始める話、など。
全部聞こえてる!聞きたくなくても、全部聞こえちゃう!!そのくらい、夜のバスって静かにするの、マナーだから!!

しかし、2人ともいい人たちなのだ。
おばさまは、年下の女の子にもきちんと敬語で終始穏やかに話していたし、女子高生もおばさまから聞かれたら素直に、料理や家事が一切できないから、おばあちゃんに心配されてます、と答えるような、絵に描いたようないい子!だった。

だから、いつもだったら「チッ、うるせーな。ちょっと周りの空気読んで、静かにしてなさいよ!」と腹を立てているところだが、まぁいいか、とイヤホンでYouTubeを観ることにした。

それでも、である。それでも、2人の会話は漏れ聞こえる。
なに?洗濯もしたことないの?お手伝いレベルでもやってないっていうのは、親が甘やかしすぎだろ?そんなんで、本当に一人暮らしできるの??は?お風呂すら炊けないってーーー!親、出てこいやーーー!!

いかん、2人の会話に気を取られてしまっている!

そんな折、ふと彼女らのすぐ前の座席を見ると、おじさんと若い男の子がいたのだが、そのおじさんは何となく後ろを見たり、咳をしてみたり、少しソワソワしている。
あ、これはうるさく思ってるぞ!注意したりしたら、どうしよう?あの子傷つかないかな?でも、本当はちょっとだけ注意してほしい。

そんな二律背反した気持ちになったが、その後何事も起こらず、しばらくして、女子高生が先に降車することで、バスには再び静けさが戻った。

あー、良かった。
と胸をなでおろしたが、その後考えていたのは、私もやっぱりうるさいと感じてたよな、ということ。

彼女たちの人柄が伝わる会話の内容で、なんとか我慢はできた。でも、そうはいってもうるさかった。煩わしかった。
そのポイントが何か、と考えてみた時、気づいたのが、相づちだ。

女子高生の相づち。
たとえば、おばさまが「私がベルギーに行った時はね。」と話し出すと、
「ヒャァ〜、ベルギーも行かれたんですか!すごいですねー。」という。

「フランスではね、ルーブル美術館でモナリザをね、見ましたよ。」と言えば、
「ヒャァ〜、すごい!私は芸術とかよく分からないんですけど!!」

それーー!その、ヒャァ〜ってやつ!!
それがウルサイ!!!
この擬音、正確ではないかもしれないけど、若い女の子って、こういう系の感嘆詞の相づちうちませんか?鼻に抜けるような、高音のやつ!
伝わらないかな。

これを何度も連発されると、本当にうっとうしい。この相づちが嫌いなんだ。この時、私はその気持ちに、はっきりと気づいた。

そういえば、会社にも派遣の女で、全然若くないけど、こういう相づちをうつ奴がいて、昼休みに度々イライラさせられてきた。その女の相づちは、「えっ!」とか「ほぅ!!」とか、バスの子とは違ったタイプだけど。
なんでもかんでも、感嘆詞で相づちうってんじゃないよ!バカ!!と常々思っていたのだ。

単にその女が嫌いだから、と思っていたけど、あれはそもそも感嘆詞の相づちのせいで嫌いになったのかもしれない。

自分は、というと、普段のテンションが元々低いせいか、感嘆詞自体少ない。
相づちというより、ツッコミ言葉が先に出るタイプだと思う。
「いや、それはないでしょ」「いや、1人でどんだけ楽しんでんだよ」「はい、今ウソつきましたねー」など、驚きは言葉で伝える。
その上で、「それで、どうしたの?」とか質問することで、会話を進める。

それゆえ、あのヒャァ〜がうるさかった。
会話の内容は好感が持てたのに、相づちが嫌いだった。

マンガ『野田ともうします。』で「視覚はすぐ慣れるけど、聴覚への違和感は決して慣れない」という場面があったけど、まさに、そうだ。
相づちも音としてとらえれば、消えなかった違和感イコールうるささも納得。

マンガでは、ペン回しの癖(とにかくその音がスチャスチャうるさい)がある新入部員候補の男を野田さんが「排除するしかないんですよ」といって、入部拒否する。この回の最後のコマのセリフが、言い得て妙。

「聴覚への不快感は人を惑わせる……」

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