3月④ハドソン川の奇跡
ニューヨーク、ラガーディア空港を離陸後すぐにバードストライクにより両エンジンを損傷したが、パイロットの判断によりハドソン川に緊急着水。乗客乗員155名は全員生還した。
2009年、現実に起きた「ハドソン川の奇跡」と呼ばれる飛行機事故だ。
パイロットは世界中から賞賛され、英雄としてもてはやされた。しかし、事故の事後調査の中で、彼の判断は本当に正しかったのか?が疑問視される。
パイロット本人も事故後の悪夢に悩みながらも自問自答し、最終的に自己の正当性を証明し、認めさせた。
その過程を描いた本作。私が感動したのは、パイロットの冷静で正確な判断をくだす場面ではない。彼が、着水後乗客の避難を誘導し、機内の最終確認をする姿。無事川岸に着いてからも、避難した人数を確認するまでは安心しない姿。
乗客の生命を最優先するのは、パイロットという職業において当然の義務かもしれないが、それができない人間がいるのを私たちは知っている。
数年前に韓国で起きた旅客船沈没事故。あの時、真っ先に逃げた船長は、船長だと分からないように制服まで脱いでいた。
その映像を信じられない思いで見ていたが、今思い出しても腹立たしい。
もちろん事故は起きる。それはどうしようもないことだ。
だが、事故が起こった時、乗客のために最善を尽くしてくれるのか、が重要だ。飛行機や船、いろいろな乗り物にお金を払って乗る時、私たちは命を委ねている。最善を尽くしてくれるパイロットなのか、事前に判断することはできないから、もう信じるしかない。
そう考えてみると、今まで多くの乗り物に乗り、何事もなく降りてきたことって、奇跡みたいだ。
そうだ、何事もなく、が続くこと、これこそが本当の奇跡で、ありがたいことなんだ。
DVD には、特典映像として、パイロット本人とその奥さまのインタビューがあった。その中で、当時彼が英雄としてもてはやされた背景には、その時の社会情勢があったと言っていた。
事故の前年の2008年、リーマンショックが起き、結局誰もが利己的だという失望感が広まっていたという。
暗いニュースばかりの中で、「ハドソン川の奇跡」は、人々の唯一の希望であったのだ。
そんな事情を知り、さらに腑に落ちた。
みんな信じたいんだ。利己的な人間ばかりじゃないって。世の中捨てたもんじゃないんだって。
この映画を観たことで、そんな風に希望を持てる人が増えるのも、また素晴らしいじゃないか。