4月②素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店
世にも奇妙な物語風。
または、笑ゥせぇるすまん風。
「望んだ形での死」を提供する代理店(もちろん違法)を巡る物語。自殺志望の大富豪40歳独身男が、代理店に「サプライズ死」を依頼するも、運命的な恋に落ちて「やっぱり死にたくない!」となる。一度契約したら破棄できないため、代理店の追手(殺し屋)が彼と彼女に迫る。
タモリさんが「奇妙な世界の住人になってしまいましたね。」とニヤリとするか、喪黒福造が「ドーン」って言ってきそう。
幼い頃に父親をヨット事故で亡くし、それ以来感情をすべて失い、死んでいるも同然の暮らしをしてきた主人公。なんとか立ち直らせようとした母親を亡くしたのをきっかけに、財産を全て処分して、自殺しようとした。色々な方法を試みるが、なかなか上手くやれない。
そんな時に、前述した「死の代理店」を知るのだ。
感情を無くした主人公は、いい人だけど、とにかく死にたい。何不自由ない恵まれた暮らしをしてるのに、生きてても仕方ないと思ってる。
そんな彼が出会った女も、自殺志願者で代理店の顧客だという。2人とももうすぐ死ぬのに、恋に落ちてしまう。男はやっと生き生きとした感情を取り戻すのだ。
「死」を意識することで、「生」がクッキリする、というテーマは、映画でも小説でもたくさん描かれてきた。そこで「死」は、重病や震災や死神やゾンビとして現れる。多くの場合、自ら望んだものではないだろう。
しかし、今作の主人公は、あくまで自ら死にたい人。「生」がクッキリしたのは、「死」ではなく「恋」のおかげだった。そこに感動的なドラマはなく、だからこそこれは、世にも奇妙感や喪黒感のあるブラックコメディなのだ。
死にたいのに、いや死にたかったのに、好きな人ができたから生きたい!幸せになりたい!!
その都合の良さに、思わず笑ってしまうじゃないか。
喪黒福造だったら、「おーほっほっほっ、そんな都合のいいことは許されないんですよぅ~。約束通り死んでもらいますよぅ~。」でドーン。かもしれないけれど。
そして、私はこのブラックコメディを見て、しみじみと「死」について思った。それは感動ドラマを見た時よりもずっとリアルに。
主人公の屋敷で働いていた年老いた執事は、先立たれた妻の元へ旅立つために、件の代理店に依頼する。それも、愛する人=主人公に看取られるという形の死。
主人公も今は恋のおかげで生き生きとしているけれど、いつかは老執事のように最愛の人を失う日が来るのだ。または自分が先立つ日が。
私にもそんな日は来る。その時に、後悔はしたくない。不幸が起きてから「生」をクッキリさせるのではなく、愛する人や家族がいる、それだけで真っ向から「生」に取り組まなければ!
彼らと別れるいつかが、たとえ明日きても、後悔しないように。