あの、嵐である。
ジャニーズのアイドルグループ、嵐。
まさか、今さら好きになっちゃってー、という話ではない。
まさか、私の人生に関わってくるとは！という話だ。
今年のシルバーウィーク、友達のSと旅行する計画をたてた。彼女は東京在住。私が長野から東京に出てさえしまえば、どこにでも行ける。
さて、どこにしようか。
先日、東京のSの元へ遊びに行った。その時、旅行の計画を具体的に決めようと、旅行会社へ行くことになった。ただその前に、日程、行先くらいは決めておかなければならない。
Sは、９月が繁忙期になり、連休初日は出勤になりそうだ、という。そこで、海外は諦め、どこか国内で、という路線に落ち着いた。
国内なら、九州がいいな、と思った。一度訪れた福岡では、美味しいモノに沢山出会えた。ぜひ再訪したい。
ただ、桜島の噴火や、台風シーズンということもあり、飛行機がちょっと心配だ。
ならば、新幹線の旅はどうだ！話題の北陸？いや、話題だけに、混みそうだ。
ならば、東北はどうだ？
私もSも、東北に行ったことがなかった。ナイスだ。決まりだ。
渋谷のH.I.S.に入ると、窓口はほぼ商談中の客で埋まっており、何組かはソファー席で待っているようだった。
私達も順番待ちの番号札をとり、パンフレットを見て検討することにした。
9/20からの二泊三日。仙台と岩手の平泉に行ければいいかな。と、ざっくりとした案を決めた。
番号を呼ばれ、女性社員のいる窓口へ進む。
そこで、希望を述べると、その女性の顔色が一気に曇った。え？なんか気分害すこと言った？
と不安になった我々に彼女はこう言った。
「その日は、嵐が来るんですよ。」
え？え？え？台風？決まってるの？もう？？
それで、そんなに眉間にシワ寄せてるの？
隣のSは、あーそうなんですかぁ、と納得している。
え？そんな普通に納得しちゃう？私が変なの？
困惑する私をおいてけぼりにして、女性社員は不機嫌そうに説明を続けた。
「嵐のライブがあって、宮城県内のホテルはもう全て満室です。今日も朝から確認してますけど、無理ですね。」
あ、そういうこと。
台風でなく、ジャニーズの嵐。
納得したが、納得いかない。なぜ、1アイドルグループのせいで、宿がとれず、目の前の女性社員は不機嫌になっているのか。
でも、そこをなんとか仙台で、とごり押しする勇気はなく、じゃ、仙台ナシで、岩手だけでいいです、と告げる。
「岩手も、平泉は宮城県に近いので、恐らく厳しいと思いますが、確認してみますね。」
譲歩したのに、この人まだ不機嫌！怖い！！
彼女は窓口を去り、どこかに確認しに行った。
私とSは、いやーそうかー、嵐かー。参ったなー。でも、平泉を見られればいいよね。温泉とかでのんびりしよ！と無理やり前向きな話し合いをした。
だが、待てど暮らせど、不機嫌な彼女は戻ってこない。
30分以上は待ったと思う。隣の窓口は、待っている間に二組入れ替わった。いいなー、嵐が来ない所に行くのかなー、沖縄？いいなー。次の人たちは宮古島？いいなー。嵐が来なくていいなー。
やっと戻ってきた不機嫌な彼女は、今度はかなり疲れていた。そして、険しい顔で宣告した。
「21日の宿は一部屋だけ空いています。でも、20日の宿は全く空いていません。どうしますか？」
クソー、嵐ー。ひいては嵐ファンー。クソー。
普段は全く恨みはないが、自分に害をもたらすとなると、一気に嫌いになる。
その後も疲れ果てた女性社員と何度かの攻防を繰り広げたが、新幹線の往復チケット、21日の平泉地区をバスで巡るツアー、21日の宿、のみを予約申込した。
20日の宿は自分達でどうにかする、という宿題は残されたままだ。
ただ、H.I.S.入店から二時間半が過ぎており、私達も疲れていた。もう早く、夕飯に予定していた代々木の佐世保バーガーを食べたかった。
旅行代金の請求書を渡し、お店の玄関まで送ってくれた女性社員は、もう不機嫌ではなかった。
嵐(及びそのファン)による妨害の中、最大限に努力し、不完全ながらも契約成立に至った、その満足感・充実感に浸る表情が見てとれた。
ありがとう、貴女はよくやってくれた。最初の不機嫌フェイスが忘れられないけど、感謝するよ！
こうして、クタクタになりながら、代々木へ向かった。一抹の不安をかかえながら。
プロの旅行会社が予約できないっつってんのに、ホントに素人の我々が予約できる宿を見つけられるのだろうか……
それでも、佐世保バーガーは旨かった。
さて、結果的に、20日の宿の予約には成功した。
ネット予約は諦め、地元のホテル協会の一覧に載る宿に直接電話したのだ。運良く一軒目で予約できた。
これで、シルバーウィークは、無事岩手旅行ができそうだ。
その後、ネットニュースで、我々も難儀した嵐のライブの余波が伝えられた。タモリカップというヨットレースの東北大会が中止になったらしい。宮城県全域、隣県の一部の宿がすべて満室になり、レース関係者が宿泊できなくなったためだ。
これだよ！これ！！まさしくこれ！
嵐のファン、恐るべし。
あとは、とにかく、本当の嵐(台風の方)が来ないことを祈るばかりだ。