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嗚呼、憧れのアメリカ~LA編(2)
サンタモニカの7月は、本当に過ごしやすい。
カラッと晴れる日が多く、海の近くなのに、全然湿気がない。日差しは強くても、海風のせいで、肌寒い日さえあった。
今も世界のどこかに移住しなければならないとしたら、あの街にするかもしれない。そのくらい、素晴らしい気候だった。
平日の午後はフリータイムだったから、サンタモニカのビーチへもよく行った。特に何もせず、ただ海を眺めていることもあったし、一緒に行った友達とはしゃいで海に入ることもあった。
ある時、そのビーチで、白い椅子に腰かけている男性がインタビューを受けていた。カメラマンもいるようだ。
あれはもしかして何かの取材?と思い、そーっと近づいてみると、なんとその男性は、ハリウッドで活躍する俳優のケビン・スペイシーだったのだ!
その時何人かと日本人の友達と一緒にいたが、彼のことを知っていたのは私だけだった。「ユージュアル・サスペクツ」「セブン」で強烈な印象を残していたから、すぐに分かった。興奮して、思い切って声をかけてしまった。なんとお願いしたのかもう忘れてしまったが、彼は快く一緒に写真を撮ってくれた。しかも、私の肩に手を回し、彼がカメラのシャッターを押してくれたのだ。
これがLAだよ!すごいよ!!ハリウッド俳優と会えちゃうんだよ!!
ジメジメした(偏見)ロンドンに行ってたら、こんな奇跡あり得ませんでしたよ!(いや、あるかもだけど)
その後、ケビン・スペイシーは「アメリカン・ビューティ」でアカデミー主演男優賞を受賞した。もちろん、私が彼と会ったことを周りに自慢しまくったことは言うまでもない。
ビーチだけでなく、街の名所にも次々に出かけた。ハリウッド、ビバリーヒルズ、グリフィス天文台。ほとんどが公共のバスで行けた。
特に、ビバリーヒルズは、「プリティ・ウーマン」を観て、中学生の頃から憧れていた場所。かといって、映画のように高級ブランド店をめぐって、リチャード・ギアのようなダンディーなオジサマに根こそぎ買ってもらう、なんてことは、当然できるわけもなく。
ただロケ地のホテルを写真にとり、すごすご帰ってきたが。あの映画の世界に来れたんだという感動は忘れられない。
週末には、語学学校の自由参加のイベントが充実しており、それを利用して、少し離れた観光地へ出かけた。ほぼ毎週。もはや、ただの観光旅行のノリである。
ディズニーランドは、少し内陸にあるせいか、暑すぎて、ほとんどレストランにいた。ユニバーサル・スタジオでは、行列に並んでいる時に、日本人のおばちゃんが順番抜かしをしていて恥ずかしかった。マジック・マウンテンは、あまり日本人には有名ではないが、絶叫マシーンが充実したテーマパークで、本当に楽しかった。
語学学校で仲良くなった友達の男の子が、週末に彼のホストファミリーとサンディエゴに行くと聞いて、一緒に付いていったこともあった。
ファミリーと言っても、独身の30代くらいの女性だった。彼女のホンダのオープンカーで海岸をドライブ。現地では、彼女は用があったため、友達と二人でシーワールドを満喫。夕方落ち合ってから、三人で夕食をとったが、かなり会話が盛り上がった。彼女はとてもサバサバしたノリのいい人で、私とも気が合った。この人がホストファミリーだったら、良かったのになぁ、と少し思った。
私のホストファミリーももちろんいい人たちだったが、いかんせん親のような年齢で、あまり気さくに話せるといった感じではなかった。
ホストマザーはとても優しかったが、前述の友達から家に電話がかかってきた時、「今のは誰?ただの友達?それともボーイフレンドなの?」と聞かれた。
もちろんただの友達だったから、そう答えたけれど、まるで子供のように心配されるのは少し面倒だった。サンディエゴに一緒に行った彼女なら、一緒に恋バナもできたかもしれない。
例の自己チュー女、レマンは途中から夜遊びしはじめ、ダウンタウンのクラブに行って朝方帰ってきたり、何日間かラスベガスに旅行に行ってしまったり、自由奔放に過ごすようになっていた。そんな彼女とはあまり顔を合わさないようにしていたが、後から別のドイツ人の兄妹が入ってきて、彼らとはよく話した。2人とも真面目で、よく勉強していたし、何より私にも優しかった。彼らと会えて、レマンのせいで芽生えかけていたドイツ人への偏見があっさり消えた。本当に良かった。
憧れの国、アメリカで過ごした1か月。
ミーハーで遊んでばかりいたけれど、ただの旅行とはやはり別物。住まなければ分からないことを体験して、知ることができた。
生活って楽しいことばかりじゃない。
憧れの国だったからこそ、その生活ぶりを垣間見れたことは勉強になった。日本の方がいいって思えることもたくさんあったし、日本人としての美徳も(レマンのような自己中心的な主張しないところ)あらためて分かった。
それが分かった上で、「アメリカって憧れるよね。」って言うのは、まぁいいんじゃないか、って今は思うのだ。
終わり。