伝統

恐怖しか感じなかった。
意味の分からないものに接すると、頭が混乱して、怖いという感情になるのだろうか。

今の家に住んで5年。毎年この季節になるとやってくる、地域の子どもたちの我が家への襲撃。
最初の年、休みの日に家のリビングでくつろいでいると、子どもの歌う声と木か何かを叩く音が近づいてきた。気がつくと、それはカーテン越しの窓のすぐ外から聞こえる。
え?え?なにコレ?どういうこと?こわ!こわ!!

その日夫は外出中で、私は何が起こっているのか全く意味が分からず、息をひそめて、彼らがいなくなるのを待った。恐怖におののきながら。

後で判明したのだが、小正月の行事で、子どもたちが地区の各家庭を巡り、歌を歌い、木の棒を打ち鳴らして厄を祓うらしい。そのお礼に家人が子どもたちにお菓子をあげる決まりとか。
私は自分の地元ではないから、全く知らなかった。
夫は地元だけど、やったことがなく、知らなかった。

てか、なんじゃい、その行事!人の家の庭に勝手に入ってきて、騒いで、お菓子ちょうだい?って、意味分かってもやりたくない。伝統?知らんがな。ハロウィン、伝統なくてもすでにめっちゃやってるがな!
(興奮のあまり、使わぬ関西弁が出てしまいました)

しかも、夫の実家も隣の地区にあるが、この行事で、お菓子をあげた子どもに「えー、これだけ?」と言われたらしい。なんだそれは!失礼すぎるぞ!子どもだからって何でもしていい訳じゃないぞ!!

そんなわけで、この行事の際は、毎年居留守を決め込み、息をひそめてやり過ごしている。

そして、今日。恐怖の襲撃は、突然やってきた。
何軒か先にいる子どもたちを見つけた夫がカーテンを閉め、電気を消し、留守の演出のため、車で出かけた。
私は二階の窓からこっそり様子を伺う。
無事襲撃をやり過ごして、ため息をつく。
なんだこれ!なにしてんだ!自分のうちで、いい大人たちが子どもに怯えて居留守使うとか、アホか!

もちろん、日本の伝統は大事でしょう。我々が後世に伝えていかなければならない、のも分かります。
でも、本当に全部残さなきゃダメ?この行事は、ハロウィンで代用しちゃダメ?

よし、来年は忘れずに外出しよう。

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