3月⑥シング・ストリート 未来へのうた
舞台は1985年アイルランド、ダブリン。
冴えない男子高校生が、好きな女の子のためにバンドやろーぜ、ていう話。
ただそれだけなんだけど、80年代の音楽とファッションが今またオシャレに見えるし、演じる若い役者たちの個性が瑞々しくて、とても良かった。
1985年に7歳だった私にとって、アーハーもデビット・ボウイもデュラン・デュランも聴いたことあるけど、熱狂した音楽ではない。それでも、作中で主人公たちが影響を受けまくって作った音楽がどれも好きだった。思えばマドンナやカイリー・ミノーグを好んで聴いていたから、それももっともかな、という感じ。
主人公は家庭の事情で、荒れた学校に転入するのだが、学級崩壊やいじめっ子、暴力で支配する校長など過酷な環境に放り込まれる。家庭でも、両親は離婚の危機、兄も大学を中退し、引きこもり状態。
そんなツライ現実に対して、主人公は悩みすぎない。好きな子に振り向いてもらうために、冴えない仲間とバンドを組んで、音楽に浸るうちに、自分に自信をつけていく。
ウダウダ言わず、与えられた環境の中で少しでも楽しいことを探そう、見つけよう、とするその姿が好ましい。
アメリカのプロムに憧れて、校内で実施することになった初ライブの前に、自分をいじめていた男子をスタッフになるよう誘う。いじめっ子も家では親から虐待されているのを知ったからだ。こういう事をサラっとできる子がモテない訳ない。恋も上手くいく。
ダブリンを出て、ロンドンを目指す若いカップルに都会は甘くないだろう。映画は、その未来まで映すわけではないが、モデル志望の彼女が一度ロンドン進出に失敗したことからも想像に難くない。
それでも、彼らの文字通りの船出に、明るい未来を期待してしまう。彼らを見送った兄のガッツポーズは観る者たちの期待と重なる。
暗くツライ状況にもめげない人を、人は応援したくなる。それをしっかり覚えておこう。