気配り
週に一度、仕事の用でSちゃんの支店に立ち寄る。その際に、彼と一緒にランチをすることにしている。
よく行くのが、「つくし」という名の定食屋だ。
日替わりランチに食後のコーヒー付きで、500円。
おいしいし、ボリュームもあって、安いので、お昼時は満席になるほどの人気だ。客は近所の会社員が多い。
私たちも1年ほど通っている。
今日も、いつものようにSちゃんと二人で訪れた。
壁にかかった黒板に、日替わりランチのメニューが「アジフライとメンチカツ定食」と書かれていた。
席につき、注文しようとすると、いつもの女性店員さんではないおじさんがお茶とおしぼりを持ってきた。
そのおじさんに日替わりランチを二つ頼み、Sちゃんと顔を見合わせた。あれ?あの人どうしたんだろ??
通常、つくしで注文、配膳、会計を担当するのは、30代くらいのぽっちゃりとして、どちらかというと地味な感じの女性。見た目は、それほど仕事ができる、という風貌ではないが、彼女の気配りがとても素晴らしい。
Sちゃんがタバコを吸うので、お茶とおしぼりを出すとき、必ず灰皿を持ってきてくれる。また、私が「ご飯少なめ」と「納豆が嫌い」なのを覚えてくれて、言わずともご飯は少なめに、小鉢の納豆は冷奴に代えてくれる。最後のコーヒーは、私達二人ともブラック派なので、ミルクと砂糖は最初から付けずに持ってきてくれる。
彼女は、いつもそれらのサービスをさりげなくやってくれるのだ。それぞれのお客の情報を覚え、毎回間違わずに実践することのすごさ。今日、彼女がいなくなって、あらためて感じた。
当然のことながら、灰皿はSちゃんがタバコ持ってるアピールするまで出てこなかったし、ご飯は少なめじゃなかったし、納豆の小鉢が出てきた。コーヒーにはミルクと砂糖が付いていた。
言ってないのだから、もちろん仕方ないこと。
でも、彼女だったら、と思わずにいられなかった。
それほどまでに、彼女の気配りは気持ちよく、だからこそ、このお店に通うようになったんだ、としみじみと思った。
接客業に限らず、すべての仕事において、こういう細かい気配り、気遣いができるかどうかで、その質が大きく変わる。マニュアルや手順書には、いちいち書かないようなこと。個人の記憶力や勘、想像力の差がものをいうのだ。
仕事に戻った時、相変わらず気が利かない後輩を目の当たりにし、つくしの彼女を思い出して、ため息が出た。