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スペインバスクで過ごした夏のこと ゲダリア篇

バスク地方にずっと行ってみたかった。
それが叶ったのは、世界にコロナが登場する少し前。2019年8月のことだ。
3日間を過ごしたゲダリアのことを記録する。
この小さな海沿いの少し鄙びた街が私はとても好きだ。

サンセバスチャンからゲダリアへ

ゲダリアはサンセバスチャンから車で30分ほどの小さな港町だ。
途中のサラウツという街からは海沿いの気持ち良い道が続く。良い気色でしょ?と、タクシーの運転手さんは、どこか誇らし気だ。窓の外には、真っ青な海沿いの道を楽しげにランニングする人たち。何度でも海に飛び込む子供たちは、いつか観たヨーロッパの映画みたいだった。

海辺の小さな素敵なホテル

選んだホテルは有名レストランエルカノの向かい。チェックインで、名前を言おうとすると、ちゃんとわかってますよ、と名前を呼ばれる。穏やかなスタッフ。少し奮発して最上階の一番良い部屋を予約していた。オーシャンビューのジャグジー付き。プライベートテラスから青い海が広がる絶景で、来てよかった!という感じ。理想のバカンス。お昼に頂いたチャコリがいい感じにまわり、窓を開けて潮風を感じながらしばしのお昼寝。夫はベランダで海を見ながら読書。休暇ってこうじゃなきゃ。

ゲダリアの街

一休みして夕方から街を散策。教会に続く目抜き通りが一本の小さな街。マゼランと世界一周を成し遂げたエルカノの生誕地でかつては捕鯨で栄えた街。今は少し鄙びた漁村。サンセバスチャンのような賑やかさはないけれどのんびり過ごすには最高のところ。美味しすぎるアンチョビ屋さんもあったけど要冷蔵なので購入を迷う。

ゲダリアは、鼠のような形の島が目印。鼠の背中を登って広い広い大西洋を眺める。遠くに来たなと思いながら、開放感に包まれる。旅に来た!という気持ちに満たされる。

意外と湿気があり気温の割に汗をかいた。部屋に戻ってシャワーを浴びて夕食へ。ボーダーシャツがユニフォームのかわいいバルでピンチョスを。軽めの夕食でいいかなと思ったけど夫は満足せず、教会の側のレストランへ。正面入り口にある焼き場では炭火焼きの魚が美味しそうに焼けている。隣で山盛りのお肉とポテトを食べる欧米人グループを尻目に重くなりすぎないように気をつけながら魚介をオーダー。タコのサラダ、イカの炭火焼、亀の手。亀の手がきたときの周囲からの注目がすごかった。日本酒飲みたい気もしたけどチャコリもぴったり。

のんびり歩いて、湾を少しお散歩して部屋に戻る。久しぶりのバスタブにお湯をためた。大き過ぎてジャグジーつけたら溺れそうになった。窓の外には静かな夜の海。8月終わりのゲダリアは、クーラーがなくても、窓を開けて波の音を聴きながら眠るとちょうど良い気温だった。 

バカンス1日目の朝が来た

ぐっすり眠って初めての朝。ホテルのガーデンを抜けると海に張り出したテラスがあり、そこで朝食を頂く。青い海と空しか見えない絶景。朝の海にはサーファーの姿が見える。けっこう波はありそう。夏中ここにいたいと思いながらそれをのんびり眺める。朝ごはんは、搾りたてのオレンジジュースに選べる新鮮なフルーツ。ピーチ、キウイ、バナナ、スイカだったかな。具が選べるオムレツ、ハム、チーズ、オニオン。トーストとバケット、ジャム、バター。チョコ、プレーン、レモンから選べるケーキ。オムレツが絶品。オレンジジュースで目を覚まし、さらに、甘くてみずみずしいフルーツを頂くとどんどんお腹が空いてくる。試しにオーダーしてみたケーキが甘すぎず、生地がしっとりしておいしい!素材がいいのだと思う。ゆっくり朝ごはんを食べながら今日の予定を相談する。

バレンシアガ美術館へ

小さな街の小さな交差点を渡ると吹きさらしのエスカレーターがある。そこを上ると、大きな黒い建物がある。青い空を背景にそびえる無駄なものをそぎ落としたような建物がバレンシアガ美術館だ。中に入ると3階くらいまでの大きな窓からゲダリアの太陽が差し込む広々とした明るい空間。受付の奥には素敵な椅子が並び、鄙びた街とは少し違う場所。
バレンシアガのルーツであるゲダリアから、サンセバスチャン、パリまでの彼のデザインの変遷を見ることができる。ベビードール、チェニック、サックといった今も繰り返し流行を作り出すデザインを彼が発案したことを知る。

星付きレストラン「Elkano」へ

バスク地方には星付きレストランが数多くある。小さな港町であるゲダリアにも、世界的に有名な星付きレストランがある。

シグネチャーは、厳選されたヒラメの炭火焼き。そして1匹からわずかしか取れないココチャ。
シンプルだからこそ、素材選びと調理法がものを言う。さらに、ここは一口で!とか部位ごとに取り分けてくれて、食べ方をしっかりレクチャーしてもらえる。
星付きレストランは数多くあれど、エルカノは幾つかの理由でとても素敵だ。言うまでもなく、とてもとても感動的に美味しいがそれだけじゃない。まず、コースよりもアラカルトでオーダーするのが自然であること。ヨーロッパのコース料理はボリューム的に日本人には厳しいことが多い。そして、良い意味でハードルが高すぎない。みんながリラックスできる環境を作れるのが一流のホスピタリティなのだろうけど、小さな子供を連れたファミリーがいたりして、なんだか暖かいファミリーレストランみたいな雰囲気もある。それでいて、お店の女性のユニフォームはバレンシアガですごく素敵なのだけれど。

ゲタリアは、小さな鄙びた街だけど、それだけでもなくて。こんなところで夏中過ごせたらどんなに幸せだろう。そんな風に思わせる素敵な場所だった。世界になかなか行けなくなっていたときを経て、世界に続く海を眺めながら過ごした短い夏を、また再び思い出している。そして、今年もまた、夏がきた。

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