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知床クルーズを体験したこと

GWの直前、自然豊かな知床半島は一気に悲劇の舞台になった。みんなが気楽に楽しみに乗るであろう観光船であんな事故が起こり、誰一人助けられないなんて。最初はショックしかなかった。

でも、ニュースを通じてクルーズの詳細を知ると、次第に抑えられないある感情が浮かんできた。「あのクルーズに乗ってみたい」
崖から海に直接流れ込む滝、氷河が削ったフィヨルドのような地形、海から見られるかもしれないヒグマ。そして、同じ気持ちを抱く友人がすぐに見つかった。こうして知床の旅が実現した。

8月の1週目に知床クルーズを予約した。選んだ会社はドルフィンだ。社長はあの事故で捜索にも参加していたし、海を知り尽くした漁師さんのような風貌だった。(イメージです)とにかく、こんな視点で観光船を選んだのは初めてだ。事故が起きた知床半島の先端まで行くコースは中止されているため、ルシャ湾で引き返すコースに申し込んだ。

当日は、快晴で風もほとんどなく、クルーズ日和だった。青空にはたくさんのウミネコが舞っていた。港を出て間もなく、断崖絶壁の荒々しい自然が迎えてくれる。クルーズが運行する知床半島のオホーツク海側は、砂浜はほとんどなく、切り立った崖が続く。真冬に流れつく流氷に削られた結果だ。崖下からすぐにストーンと海が深くなり、水深は数十メートルあるそうだ。正直怖い。

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滝や象のような岩など見どころがあると、船をぎりぎりまで岸に近づけてくれる。さらに、客が平等に景色を見られるよう、船を旋回させる。崖から直接海に流れ込む滝は圧巻だ。温泉が含まれる滝もあり、冬でも凍らないらしい。この滝が流れ込む場所は海の色がエメラルドグリーンに変わっている。

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穏やかな天気の中船は進むが、時おり、強い風が吹き、船が揺れる。知床連山の切れ目から、羅臼側からの風が通るためだそうだ。風が強くなる前には船長から説明がある。すべて予想した上で進んでいることがわかると安心する。

しばらく進むと、小さな石の浜がある。ここがヒグマスポットだ。海に流れ込む川があり、鱒が挙上するため、クマが狩りにやってくるのだ。ヒグマ目撃率90%を謳うクルーズだが、残念ながら見ることは出来なかった。今年は鱒が遅れているためだと説明された。

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折り返し地点のルシャ湾に近付いたとき、30分前に出発した別のクルーズ船が引き返してきた。船長はその船とやりとりし、風が強いため湾には入れない可能性があると説明した。

遠くからでも、湾の表面は白く波打っていた。ただ、このルシャ湾の岸は最後のヒグマスポットのため、少し入ってみるとのことだった。ルシャ湾に少し入った途端、ものすごい風が吹き、スマホで写真を撮っていた手が押し戻され、帽子が飛ばされそうになる。ちょっとした台風なみだ。自然の力を体感したところで船は引き返した。今日はだめだよ、と海に言われている気がした。

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帰りは来た航路をもどるだけなので、ややまったりする。それでも、景色が美しく飽きるほどではない。ヒグマは見られなかったけど、生い茂る島の緑の中で暮らす姿をこころで見たことにした。

船が港に着くと、やはり少し安堵した。ルシャ湾に入れなかったため、料金から1000円返金された。天候のためで仕方ないのに、と申し訳なくも思ったがくれるなら貰ってしまう。人間だもの。1000円は評判の名店、波飛沫の豚骨ラーメンに変わった。

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知床の厳しい自然を体感したクルーズだったが、ドルフィンの船長さんには安心感があった。説明はわかりやすいけれど堅苦しくなく、楽しかった。岸に近付いたり、定置網を避けたりしながらのジグザクの運行は、運転がうまくないとできないと、冗談混じりに話していたけど、本当にそうだと思う。途中で他のクルーズ船とすれ違ったことからもわかるが、3つの会社が協力していざという時に助け合う体制もあった。ルールを守らず、多くの命を奪い、他の業者への信頼を傷つけたあの事故の罪は改めて重いと思う。

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同時に「当然、安全だと思って」利用しているあらゆるサービスをどう選んだら良いのかという、戸惑いも感じる。自分の責任も大事だが、正直わからないことはわからない。今後の日本が信頼できる社会であることを願うしかなかった。そして、私と同じように楽しかったね、と帰ってくるはずだった方々のご冥福をお祈りします。



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