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Winter Holiday

木枯らしのない、冬が訪れた。
澄んだ空気を、ぼんやりとした橙色の夕陽が染める。
現実と名づけた立体の世界。
並走するパラレルワールドの別空間。
姿を消したり、降って湧いてまた行方を眩ましたり。
リアリティに浸かりすぎて、すっかり透明に色づいてしまったね。
粒になって細い細いケーブルを通る。
重厚な木の、古くて分厚い焦茶色の扉を開けて、
カウンターチェアに腰かけて、
シャンメリーを注いだグラスを傾ける。

僕「あと10日で、今年が終わってしまう」
彼「区切りなんて見えないし、来年も君のままだよ」
僕「時間にも空間にも境界がない」
彼「そう、分けるから難しくなるんだ」
僕「BEGINの曲にもあったね」
彼「流れている時を刻むから、無理が出るんだよね」
僕「気持ちを新たに、区切って刻んで”ここからは新しい”ってしたいんだ」
彼「したいことがあるの?」
僕「ううん、ない。いや、いくらでもあるんだけど」
彼「具体でなく、抽象」
僕「たくさん本を読んで、映画を観て、人と話した」
彼「知ってるよ」
僕「歴史は繰り返し、いつも同じ主題を扱っていて、途方に暮れた」
彼「大きなテーマだね、人類の」
僕「身近な出来事は、世界で起きてることの縮図なんだ」
彼「わかるような気がする」
僕「立ち尽くしててもしかたがないなと思って」
彼「インプットからアウトプット?」
僕「そう言ってしまえば、そうなるかもしれない」
彼「立ち上がる?なにか興したり、動き出したり」
僕「もっと原始的で素朴な感じ」
彼「食う寝る的な」
僕「くたびれたら、そこからだよね」
彼「動的でも静的でもなく、意識のうえでのことだね」
僕「いまの感じにしっくりくるようにしたいんだ」
彼「むかしの夢が足枷にならないように」
僕「うん、そうなると牢獄だ」
彼「新しい夢がある?」
僕「夢見るところからかもしれない。少なくとも、好みが変わった」
彼「好み?」
僕「冬って好きじゃなかったけど、ここの冬はちょっと好きかも」
彼「南国といえば南国だしね。秋もいいって言ってたね、3か月くらい前に」
僕「人生の午後かなあ」
彼「人生100年だよ、現代は」
僕「こうって決めたくはないんだけど、ちょこっと定めて安心したいのかも」
彼「広い部屋みたいだね」
僕「部屋?」
彼「身動き取れないような狭いところは絶対に嫌だけど、雨風しのいで安心して着替えたり眠ったりできる場所」
僕「比喩がビジョンで浮かぶから、表現が上手いね」
彼「新しい家を建てるんだね、魂の容れ物かもしれない」
僕「リフォームかな、わりと大がかりな」
彼「インテリアは前と違う感じになりそうだけど、間取りや配置には君らしさが残りそうだ」
僕「自分でもそう思う」
彼「たのしみだね」
僕「うん、思い浮かべるには最適な空間だよ、ここは」
彼「よかった、ごゆっくり」
僕「苦味強めの珈琲を一杯お願いします」
彼「かしこまりました」


手帳を開き、方眼紙のページに 
欲しいものリストを作成する。
新しいレシピを書き写す。
小説の一節をメモする。
いくつもの、願い事を綴る。



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