春の嵐の防砂林で 【ショートショート】
「ミズナギドリくん、おかえりなさい」
「ご無沙汰したね、うぐいすくん」
「長旅はどうだった、海は荒れてなかったかい?」
「昨年と変わらない。うぐいすくんは調子どう?」
「季節の変わり目に少しだけ喉を痛めたけど、もう平気」
「うん。いつもどおりのキレイな声だ。それに、歌が上手くなった気がするよ」
「久しぶりに会う鳥に言われると真実味がある。嬉しいよ」
「この街はいい。僕はとても好きなんだ」
「どんなところが?」
「郊外の森が大きなところ、市街地でも緑を絶やさないところ、水が美味しいところ」
「同感。海鳥なのに木々を好むなんて本当に変わっているね。まあ、僕もやたらと海沿いに居たがるから、他の鳥のことは言えないけどね」
「懐かしいね、防砂林で会ったあの春の嵐の夜」
「懐かしいよ、まるで夏みたいに雷が轟いてた」
「うぐいすくんの透き通った声が、玉のように転がって響く。これを聴けるのも、この街のいいところ」
「キザな台詞を輸入してきたね」
「思ったことしか言えないよ、僕は」
「ずっといればいいのに」
「それも素敵だけど、できない性分」
「知ってる。でも、正しくは“生態”だよ」
「博識だなあ、うぐいすくんは」
「ミズナギドリくんには及ばない」
「あ、雷の音」
「光ったような気がしてた」
「木の下に行こう」
「あらかじめの雨宿りだね」
「ここの魚を食べたいのに、おあずけだな」
「時間はたっぷりあるじゃないか。まずは羽を休めなよ」
「着いたばかりでちょっと眠い」
「寝ぐらを貸すよ」
「ありがとう、恩に着るよ」
「どういたしまして」
To be continued…maybe.