人魚の夢の夜明け 【ショートショート・エッセイ】
サンクチュアリへ向かう橋、”ががが”と音を立てて足元がぐらつく。
原因は連なって走るダンプカー。野性味溢れるトラ柄の。
縦に揺れる眩暈とイヤホンの音楽が不思議とマッチ。
眼下に広がる広場をうろつく三角耳の獣を眺めて歩く歩く歩く。
高度10,000メートルの旅、気流が乱れて一時無重力。
見知らぬ人々と共有する、祈るような切実なひととき。
すぐに忘れてディスプレイに各々戻る。映画に動画、ゲームにパワポ。
流れる雲と青空を背景に、白抜きの文字で旅情を記す。
大人までのモラトリアム、独特の景色を焼き付ける。
味わい尽くせ、来世までのボーナストラック。
別タイプへの移行期間、半端者の唄は美しい。
360°ターンしてみな、途中でこそ見えるものが多いから。
青年期の人魚が羽を生やしてジェンダーチェンジ、真夜中から夜明けに変わる頃。
徹夜した後の軽いまどろみ、悪夢みたいな甘い夢を観る。
指の間の水掻きと、肩甲骨の羽の痕跡。
目醒めたら。洗いたてのリネン、洗剤の香。
へんな眠りだったなと独り言。
ハンドドリップの珈琲を淹れる手、心なしか水掻きが大きくなった?
marginalな期間の、magicalな朝に。
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