重なる、滲む、混ざる。 【ショートショート】
あれ?
ここって何があったっけ?
新しい建造物は以前の風景を忘れさせる。
使者はその傍らにすっと立っていた。
降り注ぐ光も、壮麗な音楽もなく。
ひっそりと静かに、ただし厳かに。
ふうっと吹きかける息は雪の結晶を伴う。
外見に似合わない破壊力と熱量。
炎は温度が上がるほど寒色になるというのを思い出す。
建築は崩れ落ち大地は割れる。
拾い上げた欠片をキュッと握るとメロディが流れる。
指を広げるとカラフルな粒子が舞う。
既存のものが壊されることの清々しさ。
それを大きく上回る再構築の快楽。
新しい塔の上、神秘の工房。
木の扉をノックするが、返事はない。
遠慮がちに侵入し、質のいい椅子に腰掛ける。
ペンを執り、インクを垂らす。
行儀のいいブロットが、小刻みに蠢く。
黒い影が起き上がり、使者になる。
朝陽が射し込み、室内の色が反転する。
踏み出して、使者に手を伸ばす。
砂嵐の大画面。
筒を通り、帰る還る孵る。
更新制の紙から染み出す以前のバージョンの名残。
薄い布をかけた立体の手に取るように伝わる凸凹。
強い色をいくつも重ねて混ぜた珍妙なマーブル模様。
独創。独走。独奏。
あれ?
なにを見てたんだっけ?
新しい出来事は去った景色を遠くさせる。
ベッドの脇に落ちている欠片。
触感だけ、色味だけ、雰囲気だけ残っている。
夢かもしれないし、夢ではないのかもしれない。