失恋ソングは色あせない
先日、地元の店でたこ焼きを食べた。どことなくレトロな雰囲気の店内。10個入りのたこ焼きを注文し、出てくるのを待つあいだ、店内に流れる曲に耳を傾ける。
流れてくるのは昭和歌謡。おそらく80年代が主流。店内の雰囲気にも合っていいなぁと思っていた時、その曲は流れてきた。
失恋してるのに強過ぎん?
え、めっちゃかっこよ。何この曲。飲み干すん?相手飲み干してしまうん?とひと通り心の中で大騒ぎし、その曲を調べ帰り道のお供にした。
その道中、ふと「昔の失恋ソングって今と全然違う」気がした。なんとなく最近の曲は震えたり幸せを願ったり変わらず好きだったりしている。
そこで今回は、J-POPの失恋ソングの変遷を辿ってみようと思う。
最初に注意事項
今回は1990年代~2020年代までの変遷を辿るnoteとなりますが、私は別に「やっぱ昔の曲のほうがよかったよね~」と言いたいわけではありません。昔の曲にも今の曲にもそれぞれいいところがあるし、最近の流行の曲ももちろん好きです。
ただあまりにも『メモリーグラス』の衝撃が大きかったことだけは伝えさせてください。よかったら聴いてください。サブスクにもあるのでぜひ。
また、年代ごとの感想を述べていますが、あくまで私一個人の感想です。あまり目くじら立てずに読んでいただけると嬉しいです。
では、年代を追っていきましょう!
1990年代はしっとりバラードが多い
調べてみると、90年代のバラードはとてもしっとりしている。代表的な曲は『One more time ,One more chance/山崎まさよし』や『first love/宇多田ヒカル』だろうか。 当時の私は失恋なんてものを知らないお年頃だったためか、正直何言ってるか全然わからん状態だった。今こうやって改めて失恋ソングとして調べてみて「へぇ、これって失恋ソングだったんだ」と思うレベルだ。
さて、ここでこの頃の曲の歌詞を少し見ていこう。
この頃の失恋ソングを聴いていると、街中で立ち止まり、たったひとり声にならない声で泣く、そんな女性の横顔が浮かぶ。
もちろん、しっとりした曲ばかりではない。『もう恋なんてしない/槇原敬之』のようなポップな曲もある。ただ、大半の曲ががっつりバラードというのがこの年代の印象だ。失恋した気持ちを美しく情緒的に歌い上げている、そんな傾向にあると思う。
2000年代は失恋理由も歌い上げる
1990年代は感情や情景を歌うものが多いのに対し、2000年代は「遠くへ行ってしまう」「好きな人に好きな人がいる」といった、失恋理由を歌詞に組み込んでいるものが多い。
私自身、さすがにこの頃になると失恋を味わい、曲の意味を幅広くわかるようになってきた。ちなみに私は当時付き合っていた人によって好きなアーティストがコロコロ変わる女だった。そして別れたら絶賛そのアーティストの曲を嫌いになるという、典型的はた迷惑なタイプの女だった。
では、この頃の歌詞をいくつか見てみよう。
「うわあぁぁぁぁぁ」となっている人もいるのではないだろうか。
この年代の失恋ソングは、少し1990年代とはメロディーも異なっているように感じられる。バラードではあるけれど、しっとりと歌い上げるのではなく、どことなく強さというか、相手を思いやった「好き」があるように感じられる。
1990年代の失恋ソングが「雨」だとすると、2000年代の失恋ソングは「夜」という印象だろうか。
2010年代以降はバラードに囚われない
2010年以降の失恋ソングを聴いていると、1990年代のようなどうしようもないもの悲しさはメロディからはあまり感じられない。ややアップテンポでポップな曲調のものが多い気がする。
少し極端な例かもしれないが『女々しくて/ゴールデンボンバー』も2010年代に発表された楽曲だ。この曲がもし1990年代に発表されていたら、もしかしたらまったく受け入れられていなかったかもしれないとすら感じる。
それでは、2010年代以降の失恋ソングの歌詞をいくつか見ていこう。
ほんのほんのほんの一部の抽出だが、この歌詞を見て曲が思い浮かんだ方の中に「メロディが悲しくて仕方がないんだよなぁ」と思う方はどれくらいいるだろう。あまりいないのではないだろうか?わりとポップに歌い上げる曲が1990年代に比べると断然多いように思われる。
時々、TVから流れてくるメロディを聴いて「あ、この曲明るくていいな」と思ってしっかり歌詞も聞いてみると「え?失恋ソングだったの?」と気付くこともよくある。
歌詞を見ると「好き」を伝えられなかったための失恋ソングが増えてきたように感じられる。手を伸ばそうとして、でも勇気が出なくて届かない。そんなもどかしさが伝わってくる曲が多い。ただ、そのような曲を聴いて思い浮かべるのは、泣きそうになりながら笑って相手を見届ける、さわやかな高校生だ。青春半端ない。みんな幸せになってほしい。
1980年代は音楽の過渡期
では最後に1980年代に戻ってみよう。と、1980年代の失恋ソングを探してみると、もうカオスである。ニューミュージックも全盛でアイドルという文化も入り、せつない昭和歌謡もあり……ちょっとまとまらない。
せっかくなので、いくつか歌詞を見てみよう。
上の2曲は場末のバーでママが歌っていそうな曲調に対し、最後の曲はメロディは明るい。ただ、友達が自分の恋人を奪ったという旨の曲だけあって恨み節がすごい。明るいメロディに乗せてめっちゃ恨んでる。
この時代の失恋ソングは大人な女性の雰囲気が漂うものが多いように感じられた。失恋してるのにどこかかっこいい。気持ちを強くストレートに伝えているからだろうか。
1980年代の失恋ソングとして、今でも幅広い世代で支持を得ている一曲がある。今回の記事を書くために久しぶりに聴いたが、今もメロディがまったく色あせていないし、歌詞も響く。一部ご紹介しよう。
歌詞を打っているだけなのに少しうるっとしてしまった。
あるインタビュー記事を読むと、この曲実は別れた恋人のことを曲にしてヒットして仕返ししよう、という気持ちの元に生まれたらしい。強い。こんなに切ない歌詞なのに内心強い。
ただ、この曲はご本人も恋人には限らず、そばにいたかったのは誰なのかは色々な受け取り方が出来るとおっしゃっていたので、いまや失恋ソングというジャンルを超えたものになっているのかもしれない。(参考:現代ビジネス)
ちょっと番外のお話
今日歌詞を調べていて、その時代時代の通信手段が変わっていることを見られたのが個人的に面白かったので、そのお話を。
失恋ソングに限らずだが、1990年代には「ポケベル」や「テレホンカード」といった連絡手段が出てくる。前述の岡本真夜さんの曲の中では「カードがないから電話切る」といった歌詞が出てくるが、これはもう今の10代20代にはまったく通じないだろう。
それが2000年代からは携帯電話が出てくるので通信手段に「メール」が追加される。私もメールが届いてないかセンター問い合わせを何度もしたものだった。
そして今はスマートフォンが主流なので「既読」といった歌詞が出てくる。歌詞が世相を表してる最たるものが、この連絡ツールのように思える。
失恋したらどの年代の曲を聴こう
失恋は誰も味わうのに、こんなにも世代で歌詞やメロディが異なるのは、また趣がある。
ここまでたくさんの失恋ソングがあると、失恋の種類やそのときの感情によっても曲を選ぶこともできる。(失恋したときにそんな曲を選ぶ余裕はないかもしれないが。)ただ、曲はいつも寄り添ってくれるし、色々聴いていると「今の自分の気持ちを表してくれている!」という共感を得ることもでき、「自分だけが苦しいわけではないんだ」と、少し心強くもなれる。
私はもしこれから失恋を味わうとしたら、グッバイ強くなるから新しい歌歌えるまで飲み干してやるような曲が聞きたいなぁ、と思う。
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