わが殿 ①
わが殿、実は最後の解説を読むまで、実在の人物を題材にした小説とは知らず、読んでいました。
正直、歴史には疎く、メジャーな織田信長、豊臣秀吉、徳川家康など教科書に載る程度の人物しか知りません。
わが殿の主人公、内山七郎右衛門は畠中恵によりとても生き生きとその生涯を生きたことを描いていて、頭の中の映像化がとても楽しい小説でした。七郎右衛門が常に頭の中で考えていることを描写して、主人公がどのように考え行動しているのかとてもわかりやすく楽しめました。わが殿は多くの登場人物が登場しますが、七郎右衛門以外の人物の考えは一切描かれていません。だからこそ、七郎右衛門が慕う、わが殿はとてもアイデアのある聡明な人物であるものの、わが殿と七郎右衛門は同じ部屋で直接話せる立場ではないのに、時折、同じ部屋で身近に直接話す場面がある。こんな間近でわが殿と話をしているのに全く、わが殿の考えがよくわからない(読めない)と七郎右衛門は嘆いていることも多々あった。(読者の私もわが殿がどういう考えをもって行動しているのかどのような人物なのかを想像することになった。)それでも、七郎右衛門はわが殿を慕い続け、わが殿の無理難題にも答えようとわが殿と共に一生を過ごしたのである。わが殿を一緒に支え続けていた友が襲われ、その死が近づくことに不安を覚えた七郎右衛門は何度も何度も江戸にいるわが殿に早く友に会いにきて欲しいと文を送り、友の死が終わるその前にわが殿がお忍びでやってきて、友の死を共に見送ることができた場面。とても、感慨深く、心の琴線に触れる場面でした。そして、わが殿と共に過ごした日々も終わりに近づき長年の夢、最後にわが殿と共に隠居をと、わが殿に伝えても、それでもなおわが殿は七郎右衛門に自分の跡継ぎのことを託すのである。七郎右衛門より若い弟が病に倒れ、先に逝き、そして、わが殿も病に倒れた。わが殿との隠居は叶わなかったが、最後までわが殿と語り合いながら、わが殿を見送る場面も感慨深いものであった。他の作者ならわが殿や他の人物の考えも描写していたかもしれない。しかし、畠中恵は七郎右衛門ただ1人を中心に物語が進んでいく。だからこそ、友や弟、わが殿が先立つときの七郎右衛門の心の描写と周りの人物の会話があいまって素敵なストーリーに仕上がるのである。
畠中恵の人物描写はとてもステキで「わが殿」は特に皆さんにおすすめしたい小説です。
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