40歳の思春期(2016年8月5日)

40歳。

それはとても残酷な年齢のように思える。ようやく20、30代で確立した自分の生き方や価値観を、体の老いに伴って手放して、新しい生き方を模索しなければならない頃だからだ。

あるいは、もうすでに一度は夢をかなえた成功体験も積んでいる人もいるだろう。
それゆえに、もう若いときのようにがむしゃらに1つの事だけ打ち込みさえすれば満足することがなく、代わりにバランスよくいろんなものが見えてきて、自分の欠損部分が妙に冷静に見えてしまう年代でもあると思う。

40代は中年の思春期だ。

私は友達によくこう話している。ここでもう一回自分探しを始める人もいれば、そういった迷いもなく自然に中年期に入る人もいるだろう。

40代の生き方に疑問を持たず、自然と中年期に入っている人達に共通して言えることは、若い頃に葛藤体験を存分にしてきている人達だということ。10~20代において滑稽な自分、みじめな自分、恥ずかしくて手で顔を覆いたくなるような体験が時を経て熟成したウィスキーの琥珀色が如く、いい思い出になっている人達は、もう一度ゼロに戻ることを恐れない。

しかし、若い頃に割と器用に20代を過ごしてきた人たちはどうかといえば、もうゼロに決して戻ることができない自分を許せなくなって狼狽し始めるのである。失恋でプライドを傷つけられたり、主婦がバイトで小遣いを稼ごうとして面接に連敗してうつ病にかかる。

もうとにかく

「え? そんなことでいまさら?」

と言いたくなるほど簡単に挫折することになる。

ましてやずっと同じ場所で過ごしてきた人にとっては肉体的な衰えや、クリエイティブ性の低下など、若いころより落ちた機能にやはり目がいきやすくなる。薄くなり始めた頭髪や、体臭、体型、体質・・・・・・。もう昔のようにいられない自分に激しく哀愁を覚えるのである。

ビジネス雑誌をみても、40代の社員の明暗は顕著である。管理職につけなかった負け犬側に判定された男性たちは40代から新しい生き方を見つめることは必須になるだろう。

でも、それでいいんだと私は言いたい。
ヘンリー・フォードもアンドリュー・カーネギーも40歳を超えてから起業したし、遅咲きの作家は大勢いる。

世の中を見通せる力を持ったまま、10代のような感性を持っていられる時間はそんなに長くはないだろう。この40代の経験に裏付けされた感性をもっと大切に扱いたい。そんな風に声を大きくして言いたいが、誰も聞く者もいないだろう。最近の若い人たちは、40代のおじさんやおばさんの話なんて聞いてもくれやしないのですから。同年代にエールを送る。

もっと自由に生きて構わないんですよと。

恥ずかしいくらいに新しい夢を語れる中年になって恥をかこう。そのほうが60歳になった時に自分のことをもっともっと好きになれるんじゃないだろうか。

「メーヴェ」空を舞う 構想から13年、初の公開飛行:朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/articles/ASJ702T31J70IIPE002.html

「風邪の谷のナウシカ」で出てきたメーヴェを空に飛ばしたメディアアーティストの八谷(はちや)和彦さんは50歳だ。歳をとることを楽しむ。それは40代からの練習で雲泥の差が生まれるんじゃないかと思っている。