失敗から学んで引きずらない!息子から学んだ「今を生きる」という姿勢
日曜日の午後、田舎に移住した友達家族を久しぶりに訪ねた。
野菜の直売所でパートで働く主婦のレミちゃんは自由人。
独身時代は気ままな旅人で、世界のあちこちに出かけていた。
「ねばならない」などど言う息苦しいルールは一切なく、自分が気持ち良いように生きるお手本のような人だ。
食べることをこよなく愛し、家族や友達との時間を何よりも大切にしている。
そんなレミちゃんの旦那のトラさんは、大学時代は政治経済を学んでいたが、なぜか大工さんをしている。
物静かでとても温厚な人柄で、「前世はインドでヨガをしていたに違いない」と思わせる雰囲気の持ち主。
そんなユニークな夫婦は1年ほど前から、「より自分らしく生きる」ために田舎に移り住むことを決意した。
2人が住むと決めたのは、今にも床が崩れ落ちそうな古民家。
私が初めて遊びに行った時、ある部屋は襖を開けると外だった。
窓ガラスがなく、雨戸だけがある状態。
防犯うんぬんもだか、冬は寒くて眠れないだろうと私は心配だった。
しかし、そんなのは私の余計なお世話だったのだ。
普通の人なら「住むのは無理!」と思うようなその家に出会った瞬間、この風変わりな夫婦は「将来の自分たちのビジョン」が見えたのだろう。
私が遊びに行くたびに、古民家はあれよあれよと快適な家へと変貌している。
大工であるトラさんが、ボロボロの古民家を丁寧に愛情を持って楽しみながら手入れをしているからだ。
半年以上経った今は、薪ストーブが設置され、友達から譲られたラグジャリーなソファも広いリビングにいい感じにおかれている。
なんせ15畳はあるかと思う部屋が、一階だけで3部屋もある。
この広々とした空間を、飛び回るように走るのが3人の子供達だ。
上から女の子(小5)・男の子(小2)・女の子(4歳)ととても賑やか。
我が家の2人の子供達とは同じ保育園出身で、赤ちゃんの時からずっと一緒に生活を共にしてきた、親子ぐるみの仲間のような戦友だ。
こうした家族同士の付き合いは、本当にかけがいないものだと思う。
一緒に子供の成長や自分たちの人生の変化を分かち合うたびに、なんて幸せなんだという気持ちが心から溢れてくる。
夕方になり、子供達は大騒ぎしながら風呂に入り、冷たいうどんを晩御飯に食べた。
大人たちは、それぞれビールやワインを片手に思い思いに人生について語る。
そんなまったりとした、いい時間を過ごしていると突然大きな音がしたのだ。
「バリーン!!」
ただ事ではない音のした方向に、驚いた大人達は全員で走って行った。
そこは、広い玄関だった。
古民家の玄関は小さなガラスがいくつもはめ込まれた引き戸。
その1枚が、キレイに割れている。
割れてガラスがなくなった向こう側に、男の子2人が立っていた。
手にはグローブとボールを持って、2人とも引きつった顔をしている。
我が息子と、友人の息子だった。
私が声を上げる前に、家の主人であるトラさんはすっとガラスを拾い上げて言った。
子供達はちょっと泣きそうになりながら「大丈夫です」と答える。
犯人は我が息子だった。
キャッチボールをしていて投げたボールが、玄関の引き戸のガラスに当たってしまったのだ。
「本当にごめんなさい。」
優しい笑顔を浮かべるトラさんに、我が息子は今までに見たことがないほど礼儀正しく頭を下げて謝った。
するとトラさんは穏やかな声で言った。
「大丈夫だよ。このガラスはちょうど変えようと思っていたんだよ。在庫はたくさんあるから心配しなくていい。」
なんという神対応!!
トラさんは少しも気にした様子はなく、子供達に怪我がなかったことに安堵さえしているではないか。
息子はもう一回「ごめんなさい」と言った。
その次の瞬間、びっくりするような行動に移った。
我が子は真剣な面持ちで、友人の息子を改めてキャッチボールに誘っているではないか!
オイオイ!!反省しているなら、これ以上キャッチボールをするのはやめるのではないのか!?
私はそう突っ込もうと思ったが、友人の息子の反応を見てみることにした。
すると、ガラスを割った我が息子の言葉受け、友人の息子は真剣な顔をして答えた。
2人は爽やかにグローブとボールを持って、見えない場所へと駆けて行った。
あまりの展開の早さに、私が怒るまもないままにだ。
私はしばらくの間考えてしまった。
ガラスを割った我が息子は、確かにきちんと謝った。
今までに見たことがないほどに、礼儀正しく心を込めて謝罪していた。
息子にとってみれば、トラさんの神対応のお陰で「ガラスが割れた事件」は終了したのだ。
だから次の瞬間、最もやりたいことである「キャッチボール」を同じ失敗をしないように再開した。
だから、我が息子と友人の息子は、間違っていないのだ。
あまりに息子達が帰ってこないので、レミちゃんが様子を見てきてくれた。
「あの息子どもは、1ミクロンもガラスを割ったことを気にしてないよ!(笑)」
お腹を抱えて笑いながらレミちゃんが報告してくれた。
しばらくすると、汗だくになった息子達が帰ってきたのでシャワーを浴びさせた。(1度風呂に入っているのにもかかわらずだ)
そして「また遊びにくるね」と約束し、居心地の良い友人の住む古民家を私達一家は去ったのだ。
次の日の朝、私はちょっと息子に質問をしてみた。
「昨日、自分がした失敗を覚えてる?」
すると息子はこう答えた。
「マリオカートが上手く出来なかったことかな。」
私は絶句した。
ガラスを割ったことさえも忘れているのだ。
そして思い出すこともないままに、元気よく学校へ行ってしまった。
息子の方が私より「今を生きてる」と痛感した瞬間だった。