【NYデザイン観察】シンプルだけどインパクト大なNYの地下鉄内の広告デザイン
こんにちは。ハピネコ(@happyneconyc)です。
本職がグラフィックデザイナーなので、NYの街中の広告や雑誌、新聞、ひいてはイエローキャブの上の広告まで、あらゆるところにあふれるグラフィックを日々観察してしまいます。
基本的に、日本のあらゆる広告や雑誌のグラフィックデザインは世界的に見てもレベルが高いと思います。長い歴史や伝統、3種類の文字(ひらがな、カタカナ、漢字)を操れることに裏打ちされて、多彩な表現ができるのも強みです。
NYと日本の広告を比較した時に、大きくスタイルが異なるのが、地下鉄内(=電車内)広告。グラフィックデザインのあり方もかなり違います。
私は東京に10年住んでいたので、この記事では東京との違いにフォーカスを当てて、NYの地下鉄広告デザインを紹介します。
日本よりもシンプルなNYの地下鉄内広告のスタイル
NYの地下鉄は、ざっと見回した時に東京の地下鉄より全体的にスッキリ見えます。つり革が無いのと、広告の種類自体が東京に比べて少ないからですね。
ドアや座席上の細長い広告と、ドア横の正方形の広告だけです。窓の上のスペースは、シーズンごとに変わるNYを描くアーティストの作品、新しい電車だとスクリーンになっていてNYCの公共CMを流したりしています。
NYの地下鉄内広告の例
ニューヨークの地下鉄内の広告は、1週間単位で変わっていきます。企業の規模によって、何度も見かける広告があったり、一定の期間1車両全てが同じサービスの広告で埋め尽くされていたりします。
ほんの一例をご紹介します。
■ サブスクリプションで買う野菜 / Misfits Market
こちらは最近よく見かけるようになった、サブスクリプションで野菜を購入できる Misfits Market。形がヘンだけど、しっかり食べられる野菜や、スーパーマーケットに卸すほどの量が無かった野菜でしかもオーガニックのものを、2つのボックスサイズから選んで、毎週または1週間置きに届けられるサービス。お店で買うと$35〜$40のものが、$19とお得。
と、このサービスの内容はこの広告からは予想はできるけど、値段などの詳細情報はほとんどわからず、サイトに行くと説明があってわかる、くらいのシンプルな広告内容です。
■ ショッピング・モール&施設 / Brookfield Place (BFPL)
ワールドトレードセンター近く、ハドソン川に面しているショッピング・モール、BrookField Place(BFPL)。この広告だけだと、なんのことやらという感じですが、最近はいろいろなところで、BFPLをブランド名として出しているので、わかる人にはわかる、というデザイン。
BFPLにはハイエンド・ブランドや、フランス系のデリ&グロッサリーストア、Amazon Goなどが入っています。
■ シニア世代のためのNPO / New York Foundation for Senior Citizens (NYFSC)
シニア世代が安心して一緒に住めるルームメイトを紹介するNGO。右下のNYCのロゴが入っている広告は、ニューヨーク市のサポートがあるマークです。
■ ドッグフードのサブスクリプション / The Farmer’s Dog
こちらはワンちゃんの犬種や体格、味の好みなどに合わせて、そのワンちゃん専用の保存料など無しのドッグフードを届けてくれる、サブスクリプション。
ニューヨークは犬を飼っている人が本当に多い!
■ アパートや不動産を検索するアプリ / StreetEasy
実際に私と夫が一緒に住み始めるときにアパート探しに使ったのが、こちらのアプリ。電車内広告で見つけて使うようになりました。広告はシンプルですが、身近な例を出してくれていて共感したり、ユニークなイラストなどで笑いを誘ったりするものです。
上の写真は3年くらい前のもので、最近のStreetEasyの広告は前ほどユニークではなく、他の広告に埋もれてしまっている感じにインパクトが無くなってしまいました。アート・ディレクターさんなどに変化があったのかな?
スタートアップ系の広告がNYの地下鉄広告イメージを変えた
現在のニューヨークの電車内広告は、スタートアップ系の商品やサービスがかなりの割合を占めている感覚。でも私がニューヨークに来たばかりの5年ほど前は、今のようにすべての電車でデザイン性が高い広告が多いわけではありませんでした。
下のウォール・ストリート・ジャーナルの記事にもありますが、数年前まで電車内広告を出している企業はローカルの学校や離婚弁護士、美容整形などの広告が多く、しかもそれらのデザインはそれほど目を引くものではなく、ちょっとダサく見えてしまうものでした。私も「意外にNYのデザイン、ダサいかもしれない」と感じていました。
▼ Startups Line Up to Advertise in Subways / The Wall street Journal
https://www.wsj.com/articles/startups-line-up-to-advertise-in-subways-11564495201
WSJの記事によると、平日で600万人も乗降するニューヨークの地下鉄は、ターゲット層にリーチできる安い方法であると、数年前にスタートアップが電車内広告の価値に気づき、今では電車内広告はスタートアップが多くを占めるようになったようです。
たった数年でここまで変化できるというのは、ニューヨークでのトレンドやビジネスのスピードの速さを感じます。
ニューヨークの地下鉄内には一応Wi-Fiがあるのですが、残念なことにほとんど繋がりません。本を読んでいる訳でなければ、電車内の広告に目が行くのもすごく納得です。
NYと日本の電車内広告で大きく異なるポイント
■ NYはそもそも電車内広告の数が少ない
先にも書きましたが、NYの地下鉄は東京に比べて圧倒的に広告の数が少ないです。中吊り広告、つり革広告、ドアのステッカー広告が無いので、とてもスッキリしています。
今まで世界の大きな都市(香港、パリ、ロンドン、ミラノ、ケルンなど)にいって地下鉄に乗りましたが、中吊り広告は見たことがないかも?もしかしたら日本だけでしょうか?
中吊り広告があると視覚的にとても忙しくなって、精神的にも圧迫感がありますね。個人的にはニューヨークのこのスッキリ感のほうが好きです。
■ 広告デザインがシンプル & 週刊誌や本の広告、マンションや不動産の広告がほぼ無い
日本の電車内広告は、細かい情報量が多いものが多いと思います。
例えば、マンションや分譲住宅などの広告は、駅から何分で、近所にどんな施設があって、ローンがどのように組むことができて、など、とても小さい字で注意事項などが書かれているものを東京に住んでいる時によく見ました。週刊誌の広告はもちろん、サービスなどの広告も文字が多く、その広告だけである程度説明できるようになっています。
以前東京の広告代理店にいたことがありますが、日本の広告デザインはクライアントの意見にかなり従順に従う方だと思います。デザインとしては崩れてしまうと説明しても、クライアントは消費者の反応にかなり敏感なので、クレームなどがこないように必要以上の情報を1つの広告に盛り込もうとします。これはかなりデザイナー泣かせ。良いデザインではないとわかっていてもクライアントや上司の意向を汲んでいるデザイナーは多いと思います。
そういった業界の背景もデザインの差にかなり現れていると感じます。ニューヨークのデザインは合理的であるがゆえのシンプルなデザインに行き着いています。
NYの広告ではそもそも週刊誌や本、マンションや住宅などの広告は電車内では見かけませんが、広告商品の詳細情報が書かれている電車内広告はほぼありません。
よくあるのは、大胆な配置の画像や目を引くイラストに、キャッチコピーがドカン!と乗せられている広告。キャッチコピーはパッとわかりやすいものから、アメリカの文化背景がわからないと理解しにくいものまで様々。
見る人に考えさせずにシンプルな広告にして商品やサービスのコンセプトと世界観を伝え、広告頻度を上げることで認知度をUPさせつつ、ウェブサイトに来て詳細を知ってもらい売上げを上げる、という流れができていると思います。
■ サブスクリプション(定期購入)の広告が多い
アメリカで近年爆発的に増えて来ているビジネスが、商品やサービスのサブスクリプション。月額を継続的に支払うと定期的に商品が送られてきたり、サービスが受けられるシステムです。
先ほども例にあげた、ヘンな形の野菜や、ペットフードのサブスクリプションなどがそれに当たります。
■ 公的な広告が多い
ニューヨーク市のサポートが入った広告をよく見かけます。例として、生活のマナーに関することで困ったことがあれば311という番号に相談することができることを啓蒙するものや、移民のビジネスを応援するものなど、多岐に渡ります。
■ 芸能人を使った広告が非常に少ない
電車内の広告では、俳優や女優などが使われていることが少ないです。雑誌の中のファイン・ジュエリーやコスメティックブランドでの広告では時々見かけます。
最近では少し変わりつつあるようですが、俳優や女優たちは一般的な商品広告などに出ると「落ち目」として認識されてしまい、イメージ戦略にリスクがある、とのことで、まだその傾向は残っている感覚です。
日本では芸能人を広告塔として電車内広告に使うことが非常に多いですね。良く電車に乗る人なら、芸能人をイメージすると、商品名も一緒に言えるくらいに浸透していると思います。私は東京にいるときにテレビを持っていなかったので、芸能人の名前を言われたときに、「あぁ、電車にある脱毛の広告の」というような連動イメージができていました。
ニューヨークではそのようなことが少ないので、広告では商品やサービスのコンセプト、世界観にフォーカスして見ることができていると思います。
■ 日本の電車内広告のような立体的なものや変わった素材の広告はほぼ無し
日本の電車内広告では、実際の商品を感じられる素材を使った広告や、クリアな素材を使ってユニークな広告のデザインにしているものがあります。
予算はかかりますが、ブランドや商品認知へのインパクトが大きく、短時間で波及効果が見込める、ユニークなアイデアだと思います。中吊り広告がある日本だからこそできるテクニックですね。
ニューヨークではこういった広告は見たことが無く、全てフラットな普通の印刷。逆に言えば、グラフィックとその見せ方のアイデアだけでブランド認知力の勝負をしている印象です。
番外編:シャトル(Sトレイン)はラッピング車両
グランドセントラル駅からタイムズスクエアを繋ぐシャトル(Sトレイン)は、3車両のみでほんの2〜3分ほどの距離の地下鉄ですが、その車両が完璧なまでに広告ラッピングされています。
なんと車両の外だけでなく、天井やシートに至るまで内側も全て!3車両しかないラインだからこそできる広告の仕方ですね。
広告の種類はアパレルブランドや新作映画、新しいアミューズメント施設など様々ですが、内部まで全てラッピングされているので、世界観を伝えるにはものすごく効果的だと思います。
全てのSトレインがラッピングされている訳ではないので、乗れたらラッキー!です。
まとめ
ニューヨークの地下鉄広告は、キャッチーなグラフィックやわかりやすいキャッチコピーなので、どんなサービス or 商品なのか、ウェブサイトにいって詳しく知る、ということが多いです。
ウェブサイトまで行くというのは、かなり興味を持った状態なので、ウェブサイトの説明もしっかり読んでしまうんですよね。
そして電車の中で同じ広告を何回も目にする。ということが繰り返されると、どんどん興味をそそられて、購入に至るまたはアプリをダウンロードする、という経験が多々あります。
この法則はニューヨークのように、トレンドの動きが早く、車社会では無い都市でひとつの鉄道会社だけが電車を運営している、という特殊な大都会でしか通用しないかもしれません。
電車内広告が、“使い捨てのデザイン” にならずに、トレンドを生み出し、ニューヨーカーのライフスタイルに入り込むきっかけを作っているデザインになっていることが、非常に興味深くて、写真のレイアウト、キャッチコピー、カラースキーム、完全なるユーザー視点など、毎日勉強になっています。
おまけ
この記事のためにいろいろ写真を撮りましたが、記事内で使わなかったのでおまけで載せています。
ではでは!