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「近くの言葉は退けられ、遠くの言葉は届けられる
吉本隆明は、言葉の遠隔対称性について「近くの言葉は退けられ、遠くの言葉は届けられる」と語る。
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これは思い当たる節が多い方もいるのではないだろうか。夫から「もっと子供を大事にしたらどうだ。仕事なんて後からでもできるだろ」と言われると「その言葉、そっくりそのまま返してやろうか」と腹が立つのに対して、自分の尊敬している人の著書などで「自分の人生の軸は何かよく考えなくてはならない。子育ての時期は一瞬で、しかも取り返しがつかないのだから」という趣旨のものがあると、深く心に染み渡るのと似ている。
近くの人から何か言われてしまうと、自分が非難されている気持ちになるからだろう。言葉は一対一で届けられた時、相手に向けたメッセージとなる。その点、本は自分で受け取るメッセージを選ぶことができる。都合の悪いところは読み飛ばせばいいし、興味のない章は飛ばせばいい。
SNSも同じだ。ただし、どうしても見たくないゴシップなどの情報や、幸せのマウントを取り合う様子が目に入ってくる。その様な情報を一つずつミュートしていけばいいのかもしれないが、その手間を考えると、SNSは一切やる気にならないというのが正直なところだ。自分の見たい情報だけが目に入るようになれば、まるで読書のように快適なSNSになるんだろうけれど。
SNSで、きっと誰もが億劫だと思っているのは、コメントに対する返信ではなかろうか。誰からもコメントがもらえないと、それはそれで寂しい気持ちになるのだが、過去の投稿に対してコメントがあると「このコメントに返信してない癖に、新しい投稿をするのもちょっと気が引けるな。新しい投稿はもう控えようか」というサイクルに陥ってしまう。
お誕生日おめでとう、などの一言メッセージへの返信も、本当に難しい。単にワンフレーズだけのコメントにはスタンプで返せれば済むのだが、一言添えてくれる友人に、スタンプだけで返すのはなんだか気が引けてしまう。
そこで知人と「SNSへのコメントを外注できるビジネス」を立ち上げよう、という話になった。
自分の投稿に対するコメントに返信に使うもよし、ビジネスアカウントとしてフォロワーを増やしたいが為に新しくコメントするでも良し。プログラミングでは限界を感じるので、外注でやることにする。フォロワーが増えたら、成果報酬型でコメントをしてくれた人にもバックが入る……といった仕組みだ。
なんだか実のないビジネスだが、とりあえず食うために金は必要なので仕方ない。そんなことを言い始めると、このようにあるもの8割ぐらいはしょうもない仕事になってしまう。やりたい職業に就いて食べていくには、あまりにこの世は世知辛い。このビジネスを始めると一気に私のSNSに対するコメントが減りそうだなので、代表には知人を立てることにしよう。
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