言語持たない族と口から生まれた族【前編】
人間には「言語持たない族」という種類の部族がいる
彼らはたわいない会話はするのだけれど真剣な会話をしたがらない
言葉を使って自分の気持ちを表現したり、
何かの問題を誰かと一緒に解決したりしようとしない
しなくてもなんとかやっていけると思っているし実際やっていけている(ように見える)
族というだけあって彼らのまわりはみんな「言語持たない族」なので
なんとなく感覚でトラブルも乗り切り、「言わずもがな」な感じでいろんなことを流し、問題を提起したりみんなで相談するということも特にない
親や兄弟、友達も、ほぼみなさんそんな感じである
対して「口から生まれた族」という部族もいる
その名のとおり生後すぐからペラペラしゃべりだし特に社会に出るとその口の達者さを活かした仕事に就く
こちらは何か問題を発見すると「共有」して「相談」して「解決」に向けて話し合いをしたがる
なんらかの解決策や妥協点をみつけないと気が済まないし、もっといえば相手がそれに協力しようとする態度自体を見定めようとする
この2つの部族が一緒に暮らすとどうなるか
察しの良い方なら気がついているだろうけどこれは我が家の話
夫と私のことである
一緒に暮らし始めたころ、あまりの価値観の違いにうろたえた私は早速いつも仕事でやってきたように話し合いをしようと試みた
しかし相手は乗ってこない
「ちょっと話があるんやけど」と言ったとたん
「あ?なんや?」といきなりケンカ腰である
口ではかなわないことを本能的に知っているから
奴らはいきなり吠えてくる
そうか、「言語持たない族」は「自己防衛過剰族」でもあるわけか
しかしそんなことでひるんではいられない
「生活費のこと、少し相談せなあかんと思うんよ。あーだこーだ(説明中)」
「あ~?そんなもん知るか!どうせいっちゅうねん」
「口から生まれた族」の女は口がぽかんとなる
なんでキレているのかがわからない
欲しいのはそんな言葉ではない
「文章を、ちゃんと会話になる文章を私にちょうだい」
そして一番驚いたのはそこで話が終わってしまうことだ
「え、もう終わり?は、話し合いにならんではないか…」
そこで手を変え品を変え色んなアプローチで迫ってみる
あるときは泣き落とし作戦、あるときは困ってるから助けて作戦
そしてあるときは怒りマックス上から爆弾作戦(→これ一番あかんかった)
どれも不発、ことごとく失敗
思い起こせば大阪時代、一緒に暮らしていた娘とはツーカーの仲だった
笑うとこも一緒、町ですれ違う人を見て何かいいたくなるポイントも一緒
一をいえば百を知るくらいの感性の近さ
ラクだった
そして楽しかった
いつもしゃべっていたし笑っていた
なんてったって娘も立派な「口から生まれた族」だもの
1歳半検診で複数の単語を並べて文章にしてしゃべっていた子だもの
何か問題があっても
「こうして、こうして、こうしよか」
「それやったら、こうもしたらええんちゃう?」
「ああそうやね、じゃそうしよう」
3行で済んだ
あの生活を20年過ごしたのだ
ご存じないと思うので説明すると私は未婚で娘を産みひとりで育ててきた
20数年母子二人三脚だった
そして娘が大学を卒業したときに今の夫と結婚をした
それが今話題のこの人言語持たない族である
そして今私の口は完全に閉じてしまった
「う、う、う…しゃべりたい…」
後編に続く・・・