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熟女バーを作りたい


熟女バーが流行ってるって聞いたのはもう10年くらい前だと思う
40アッパーの熟女のみなさんしかいないスナックがとにかく盛況だとか


普通の飲み屋さんと比べてなにがいいかってまずお姉さま方が聞き上手
人生の酸いも甘いも知っているので客の男性がうだうだしょうもないことで悩んでたって大きな心で包みこんでくれる
そして最後はアッハッハーと明るく笑い飛ばしてくれるのだという


なるほど、話をきいてほしい、癒されたい、嫌なことも明るく吹き飛ばしたいという方にはもってこい
「え~40超えてたら女として見れない」という方は若い女子がいるキャバクラとかに行けばよろしい
「若い姉ちゃんはこっちが気を使ってしゃべらないといけないし疲れるんだよな」とか「とにかく誰か優しく俺の話を聞いてくれよ~」って思っている人なら熟女バーの値打ちがわかるというものだ


熟女バーが大人気という話を耳にした私は友達と一緒に熟女バーやりたいよねと盛り上がった
そもそも熟女バーならキャバクラやスナックにくらべて競合は少ないずだし
その中でうちの店だけの強みをつくればいいよね
私たちならできそうだよね~とすっかり熟女になっていた私たちはお互いを認め合った

そう、私は自分で水商売に向いていると信じていた
まだ二十歳そこそこの頃、勤めていた会社で支店長秘書をしていたことがあってボスのお供でよく北新地へ行った
なじみのスナックに何回か行くうち、あなたなら支度金払うからうちに来てよ~とママに引き抜きをうけたこともあった
思えば父方の叔母は二人ともスナックをしていたし、短大のころは時給に惹かれてビジネスホテルのラウンジとスナックで飲み屋バイトを掛け持ちしていた
会社に入ってからも職場のみなさんから「むらっちゃんはスナックとかやりそうだよね~そんときはスナックいげた(#)って名前つけなよ~」とかいわれてたりもした
いげたっていうのは勤めていた財閥系の会社のシンボルマークで、これを店名につけときゃグループ会社も含めてまるっとお客にできそうだな、などと本気で考えたりもした
「お店開いたらみんなきてくださいよ~」とノリノリで返す自分はもはやスナックのねえちゃんの気分だった


あれから30年、じゅくじゅくの熟女になった私はあらためて今熟女バーをやるべきかどうか考えてみた


大前提としてまず私はお酒が飲めない
飲み屋のママがお酒を飲めないなんて新しいじゃんとも思うが
しらふで酔っぱらいのテンションについていけるかというと
若い時ならいざ知らず今やそんなパワーはない

嫌なことがあってぐずぐず落ち込んでい客客の話を最後までまで存分に聞いてあげ温かく包み込み慰めてあげる、というマザーテレサ技だがこれももはや私にはできない
たぶん途中でイライラしてしまうだろう
「だからあかんねん、あんた」と説教してしまうかもしれないし
「いっぺん死んで来い」と昔部下に言ってた超絶パワハラワードを吐いてしまうかもしれない
てかそもそもなんでお前の話を聞かんといかんのだ
むしろ私の話を聞いてくれ
家にはコミュニケーションがとれない「言語持たない族」の夫ががいるだけなんだよ
「誰も私の話を聞いてくれないのよ~あんた聞いてよ~」
と客より前のめりになって自分の話をしだすのではないだろうか

そうか、接客業というのは自分が満たされてはじめてできるお仕事なんだな
本当のおもてなしって心が豊かでないとできないんだな
じゃ私、向いてないじゃん
なんであの頃あんなに自信があったのかもはやわからない

心が貧しいと気づいたので自分のためにイケオジバーを探そうかと思ったが
はてこれ行ってみたいか?私
布施明みたいな上品でばかほど声のいい紳士がゆっくり話を聞いてくれて
「そうかそうか偉かったね、頑張ったんだね」
と優しくあいずちをうってくれるなら行ってもいいかもしれない

舘ひろしみたいなダンディでスマートなおじさまがそっとエスコートしてくれるなら、すでに枯渇したであろう女性ホルモンを絞り出すために通っちゃうかもしれない


しかしもし普通のおじちゃんが出てきて「それは君があかんな」とか
ちょっとでもえらそうなこと言ってみ
もう考えただけでも腹立つよね、ストレスだよね
そしてそっちの確率のほうが高いよね
世の中に布施明や舘ひろしはそうそういないよね

ということで今日も家でひとり黙々と仕事をしながら
熟女バーの夢もイケオジバーに行くこともあきらめたのでした


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