「生きちゃった」観ました
1月3日、軽い気持ちで観たこの映画からボディブローを食らった。とんでもない映画だった。
以下感想とか。
〈目次!〉
1.ストーリー
2.愛ってなんだろう
(↓以下ネタバレ有り)
3.何が「生きちゃった」なのか
4.役者さんがすごい
5.その他感じたこと
6.まとめ
1.ストーリー
厚久(仲野太賀)が妻である奈津美(大島優子)の浮気現場を目撃したことから、平凡な日常の崩壊が始まる。
行為中の奈津美と目が合うや謝りながら家を飛び出すし、離婚を持ちかけられてもなお、何も自分の思いを言うことができない厚久。
幼馴染である武田(若葉竜也)は2人を気にかけるが、どんどん状況は悪くなっていく。
この物語で繰り広げられる地獄に、明確な犯人はいない。それがリアルだ。
観る人によって誰に共感できるか、感情を入れられるかはもちろん変わると思うけど、
私は主軸の3人全員に共感できるなぁと思った。
だから観てる内に辛くなったし、考えさせられる部分が多々あった。
2.愛ってなんだろう
愛の違い
愛の形はそれぞれ違う。形じゃない場合もある。
(奈津美のそれを優子さんは「温度」と言っていた気が。インタビュー読んだんだけどソースの記事が見つからなくなっちゃった)
だから、三者三様でも愛は確かにあるんじゃないか、と思う。
奈津美の浮気相手だって、質量は違えど奈津美のこと好きなんだろうな、と感じる部分もあったし。
みんな違ってみんないい、だけどその少しの違いですれ違っていくからままならないよね。
愛を言えなかったのは誰か?
全く自分の本音を言わない厚久。でも彼だけが言えなかった訳ではない。
奈津美は5年間1人で不安を抱え続けていたし、
武田も武田で奈津美に対してなんらかの愛情はあったけど伝えなかったんじゃないか、と考えられる節がある。
誰も自分の本音をぶつけていなかったのかもしれない。
正解はわからないけど、言わなくちゃならない。
どの愛をぶつければ正解なのか、なんて誰にもわからない。
誰もが自分以外の人間の心情に完璧に寄り添うことはできないだろう。相手を慮る精度にも限度がある。だから、言わなくちゃいけないんだと思った。言って最悪な方向に転がる場合もあれど、実行してみなくちゃわからない。
それを伝える最後の車中でのシーンが圧巻すぎる。ここに、90分間の全てが詰まってる。
(↓ここからネタバレ注意!!!!)
3.何が「生きちゃった」なのか
もがいて愛を得ようと、生きようとした奈津美は死んで、厚久の兄も洋介(奈津美の浮気相手)の元に単身で乗り込み何かを伝えようとしたが、結果人殺しになって刑務所に送られる。
愛を言えなかった、何も行動できなかった厚久は生きてる。のうのうと、閉鎖的に暮らす厚久の家族も生きてる。
でも、本当に生きているのはどっちだろう、生きようとしてるのはどっちだろう?
タイトルの「生きちゃった」って多分ずるずると生きてしまった厚久のことなのかもしれない。
4.役者さんがすごい
全員うますぎた。というか鑑賞中に、この人演技上手いなとか思う余裕を与えられなかった。
仲野さん。
言わずもがな、演技力がめちゃくちゃ高い。
表情がほぼ無だった厚久が感情を徐々に爆発させる様子が印象的。
佇まいの定まらない、どこかふらふらして芯がない感じも最高に良かったです。
無の時も無の時で、絶対なんかいろいろ溜め込んでて、出しちゃう寸前だな、という表情を見せてくれる。
「南瓜とマヨネーズ」で気になった俳優さんなのですが、改めて出演作追ってみようと思った。
優子さん。
最初はああ、優子さんだ〜って感じだったんだけど、話が地獄になっていくのに比例して、凄みが増していく。
そーいう場面を厚久に見られて、目があった時とか、借金取りが来た時とかのあの表情、娘への愛情とか。奈津美の強さ、弱さの表現が上手い。
でもやっぱり最後の叫びが一番すごかった。
叫ぶ前に一瞬口角が上がった気がするんだけど、あれは全てを悟って諦めて笑ったのだろうか。
死ぬから怖い、ではなくて、人生こんなもんかよ!死にたくない!っていう叫びに受けとりました。
合ってるかわからないけど。
若葉さん。
彼も上手い。
高校時代の奈津美と厚久との帰り道を思い出して泣くシーンとか、突然来て愛がどうこう語りだす奈津美にキレるんだけど、すぐに冷静になってやっぱなんかあったら連絡しろ、と伝える武田の優しさだったり。
何もかもが自然で、武田という人間が本当にそこに存在する感じがした。
仲野さん同様、最後の車中での演技でグッと心を掴まれた。静かに見守るだけだった武田が最後の最後で感情を爆発させて、すごく頼もしくて。
でもやっぱり見れない!って泣くのがオチとしてとても良かった。
5.その他感じたこと
超絶ブラックユーモア
一貫してシリアスなこの映画だけど、絶対笑わそうとしてるよね!?という部分も多々見受けられる。
全力の「大麻やめろ!!!」コールとか、最悪な状況下で撮る家族写真とか。(なんであのタイミングで笑顔で撮るんだよ、と思った)
お話の中の登場人物たちはそういうつもりなく行動してるわけだから、人間ってちょっと滑稽だ。
どうすることもできない娘の立ち位置
この物語で終始大人に振り回される厚久の娘、鈴ちゃん。
登場人物に共感しつつも、終始一貫して鈴ちゃんの視点から物語を見る自分がいた。
鈴ちゃんから見る両親、お父さん方の祖父母、浮気相手、お母さん型の祖母、ひとりぼっちの登下校の道。一体どんな風に映っているのだろう。
愛し方は違えど、優しいお父さんとお母さん。
誰も悪くない世界で、でも確実に悪い方向に進んでいて、その状況の中で子どもはどうすればいいんだろう?
6.まとめ
日本アカデミー賞にノミネート、されるのかな?されて欲しいな。そのくらい最高の映画でした。
あと、劇中で言いたいことを言えない厚久が何度も口にする、「日本人だからかな?」という台詞。
なるべく目立たないことばかりに気を取られ、言いたいことも言えずに最悪な方向に転がるくらいなら、言って最悪な方向に転がった方がまだいい。
思ったことはちゃんと伝えなきゃいけないなと思った。