🌱「痛い思いさせてごめん。」
あのことは二度と忘れられない。
でも忘れてしまいたい。
あんなもの無くなってしまえばいいのに。
この世界はいつも残酷だ。
弱き者ばかりが犠牲になり、苦しむ。
まさに弱肉強食の世なのだ。
あれは18の時だった。
色々あったが、なんとか薬学の道に進んだ。
憧れの学部に入れて誇らしかったが、
見た現実は全然酷だった。
ここには身も蓋もないやつばかりだ。
そして医療は汚い仕事なのだ。
1年の終わりに、解剖実験をやった。
大きなカエルが、どでんと横たわっていた。
初めてみた手の平以上のカエルは、
未だ赤い心臓が動いている。
私は今から、この子を解剖するのだ。
体は震え、体中汗でににじんでいた。
それが仇になった。
焦った勢いで、ハサミは彼を貫いた。
彼の命を奪ってしまったのだ。
鼓動が小さくなっていく。
ホルマリン漬けとはいえ、痛かったろう。
彼の死はあっけなかった。
かけてあげる言葉も、なかった。
急いで先生の所へ、謝りに行った。
ごめんなさいと心から。
でも、先生は怒らなかった。
代わりにこんな言葉が聞こえた。
聞き間違いじゃない。
私は耳を疑った。
「大丈夫。代わりはいくらでもいるから。」
目の前が真っ暗になった。
どうしてあんなことを言われたのか。
それは今でも分からない。
彼らは、同じ生き物のはずであろう。
小さいからって、予備があるからって。
悪ガキだった私には、彼らの声が聞こえていた。
だからこそ幻滅していた。
この大学に、医療そのものにも。
彼はその後どうなったろうか。
ちゃんと供養してもらえたろうか。
でも私は知らない。
ここなら命の大切さを、学べると思っていたのに。
これじゃあ一生ダメだろう。
脆く汚い教育など、もうやめなくてはならない。
二度と同じような悲しみを生まぬ為にも。
大事な命をむやみに殺さぬ為にも。
※(この話は、私自身もう思い出したくない記憶の一つです。この時以降から、私は医療というもの自体を毛嫌いするようになりました。また、学校の授業で動物解剖を行いすぎたが故に、私は命の大切さというものがよく分からなくなってしまいました。医療の大学では大事な項目の一つかもしれませんが、ならば尚更、命の大切さというものを、学生達にきちんと教えるべきだと思います。例え学校の実験でも、それで心が傷つく人がいることを、大学や学校の先生方にはちゃんと知っておいてもらいたいなと思いました。そしてやはり私自身、動物達の解剖実験には反対です‼️)