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ブレックファースト オン ザ デスク
寝……… …坊した。眠い、とても眠い。もうちょっと寝よう…。
そう思ってしまうのは、正常性バイアスのせいか。布団の中から時計を見ると寝坊はしたが、大遅刻するほどの時間ではなかった。だからいっそのこと、もっと寝てしまおうと思うのかもしれない。眠い。だけど起きねば。ベッドからのっそり起き上がる。
さてと。これから何かを削らねば、いつもの時間に家を出れそうにない。ここで即削られるのが朝食。朝食を食べなければ、寝坊した分の時間を挽回できる。という事は、今日の朝食はオフィスでとなる。
「オフィスで朝食!」
これに心が跳ね、一気に目が覚める。そして身支度を進める手が1.5倍速になっていった。
私は料理を全くしない。更に平日は同じ物を食べており、自分でもよく飽きないなと感心している。朝食はご飯代わりのオートミールに、味噌汁(インスタント)、温野菜サラダ(冷凍のミックスベジタブルをレンチンしただけ)と、味玉1個(買ってきたやつ)。一応の栄養バランスとコスパを考えた結果至ったメニューだ。これを何も感じず考えず、黙々と飲み込んでいる。味も普通に美味しく、特に思うことも何もない。
しかし今日はオフィスでの朝食だ。私にとっては非日常。何を食べようかとワクワクしてくる。この間寝坊した時は、ゆで卵とたまごサラダが挟まったサンドイッチにした。ゆで卵の黄身は二層になっていて外側は黄色、中心はオレンジ色の完璧なゆで具合。この断面が目に鮮やかで食欲をそそられたのだ。あのたまごサンドは美味しかった。でも、食いしん坊の私にはちょっと物足りなかった。今日はどうしようか。そうだ、デキるビジネスパーソンの設定で朝食を食べよう。
きっと彼らが食事で重要視するのは合理性。手軽に完璧な栄養バランスをとれる物がいい。ならば「一日分のビタミン」とか書いてあるゼリー飲料だろう。パソコンを開いて、ぎゅっと握りつぶしながら一気に流し込む。
うーん。かっこいいけれど、それではすぐにお腹が空いてしまう。残念ながら私の胃袋はかっこいいと言えるサイズ感ではない。それにせっかくのオフィスでの朝食なのだから、ちゃんと食事っぽくもしたい。そういう時はアレ、アレにしよう。
職場近くのコンビニに入ると、よく聞くチャイムが鳴った。その音を背中で聞きながらパンの棚の前に立つ。今日の朝食は完全栄養を謳うパンだ。パンなのにビタミン、ミネラルだけでなく、たんぱく質も摂取できる。しかもそこそこ腹持ちも良い。パッケージもおしゃれで都会の高層ビルがよく似合いそうだ。今はデキる人の設定なので、少し値段が高いこのパンもしれっと買えてしまう。更に外資系カフェで買ったコーヒーを手に出勤すれば完璧。しかし近くに無いので、残念ながらそれは見送った。代わりに自販機で立ち止まり、ピッとスマホをかざして缶コーヒーを買う。選んだのは「朝専用」と書いてある赤いのだ。これで今日の設定に沿った朝食が完成した。
オフィスに着くとメールをチェックしながら、パンの袋を開ける。そうそう、これこれ。メールは朝必ずチェックしているけれど、今日の朝食には特に「メールをチェックしながら」が大事なのだ。
ふわふわのブラウンのパンから素朴で甘い匂いが香る。一口噛むとチアシードがプチプチと弾けた。そして豊富な栄養素が体の中に入っていく。その一つ一つが踊るようにして、マウスを操作する指の先まで行き渡っていくような気がする。
「実は今、デキるビジネスパーソンの設定なのです」
なんて誰にも言わないけれど、気分だけは浸りつつ、いつもの朝がスタートした。
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会場: 東京都立産業貿易センター浜松町館4階南側
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