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描くこと、そして祈りー村田峰紀さんのパフォーマンス

2022年3月3日、京都にあるMtK Contemporary Artというギャラリーで展覧会「N/World」がオープンしました。その開会に合わせて、出品作家の村田峰紀さんがパフォーマンスとしてのライブ制作を行いました。

ギャラリーの中で見た村田さんのパフォーマンスは圧倒的でした。現代アートに触れたというより、何か超自然的なものに触れたような、そんな感じさえしました。

今回は、そのパフォーマンスの様子をレポートします!

オレンジと黄色とブルーのアクリル板とともに登場!

村田さんはパフォーマンスを通じて作品を制作するアーティストです。観客を前に体を目一杯使って制作される様子は力強くものすごいエネルギーに溢れています。私は、その行為が何かを象徴するものとして意味を見出そうとするのですが、実は同時に、村田さんが行うパフォーマンスの行為は、「表現する」という行為そのものでもあり、その表現行為を通じて作品が制作されていくものでもあります。つまり、村田さんの作品は、パフォーマンスとして、またライブ制作として、二重の魅力を感じることができるのです。

今回のパフォーマンスも、描くという行為そのものが表現されていると同時に、描く行為を通じて作品が制作されました。

村田峰紀さん登場! エネルギーをたぎらせる!

パフォーマンスが始まったのは、17時。会場には続々と人が集まってきて、そろそろ始まるのかなぁと思っていたら、突然、会場にシンとした空気が流れました。そして、村田さんが、ペタリ、ペタリとお客さんの間を歩いて入ってきました。

オレンジと黄色と青色の3枚のアクリル板を持って登場した村田さんのズボンのポケットにはボールペンがびっしりと刺さっていました。

営業マンであるうちの夫も、よくスーツやワイシャツのポケットにボールペンを刺していることがありますが、普段の生活で、ボールペンをこんなにたくさん刺している人は見たことありません。

今回は、このアクリル板とボールペンが、作品の材料になるのだなと思いました。

体からエネルギーを放出しているみたい!

会場に入ってきた村田さんは、3枚のアクリル板を床に置きました。それからゆっくりとオレンジのアクリル板を持ち上げ、まるでご自身のエネルギーをためているかのようにオレンジのアクリル板をご自身のあたまにつけたり離したりされます。

いよいよ、エネルギーが村田さんの体の中に溜まって、外に溢れ出てきました。
バチバチという音が聞こえてきそうでした。

アクリルをゆっくりと上下するうちに、静電気がたまって、アクリル板に髪の毛がくっついていきます。「これは静電気なのだ」その事実をわかってはいても、村田さんの様子を見ていると、徐々にエネルギーが村田さんの中に溜まっていって、それがバチバチと体の外に放出されているように見えてきます。

書く、描く、動く、吠える!

そうして、村田さんは頭の上に持ち上げたアクリル板を何度か音を立ててたわませたかと思うと、突然、とても重たくて耐えられないといったように、アクリル板から手を離しました。

ガン、ドン、ドン、ドッシャーン!

アクリル板はも、まるで雷のような大きな音を立てて床に落ちました。

村田さんは、じっと床に落ちたアクリル板を見つめます。まるで、アクリル板と対話するように、じっと微動だにせず、睨みつけるように見つめます。

再びご自身の中にエネルギーをたぎらせていらっしゃるようでした。

会場にいた私たちもアクリル板と村田さんの間の緊迫した空気を見つめました。

すると、ふっと、空気がゆるみ、村田さんは床にひざまずきました。

そうして、エネルギーが溢れんばかりに充満した村田さんは、いよいよアクリル板にボールペンで描き始めたのです。

固いアクリル板に描き始めた村田さん。
最初はボールペンがアクリル板にはじかれているようでした

アクリル板は固そうでした。そこにゆっくりとボールペンをつきつける。最初は、試し書きのようにアクリル板の上のボールペンを走らせていらっしゃいました。その時は、ボールペンがアクリル板にはじかれているようにも見えました。

しかし、すぐに村田さんの動きは素早くなりました。ボールペンはアクリル板に確実に痕跡を残しはじめ、アクリル板の上でぐるぐると動かす村田さんの動きは次第に早くなっていきました。村田さんの集中力もその動きに合わせて高まっていくようでした。

そのうち、村田さんの動きに合わせて、どこからともなく、ウォーオーオーオー、ウォーオーオー、という地響きのような音が聞こえてきました。

私はこれはどこから聞こえてくるのだろうと耳を澄ませました。超自然的なものを感じさせるような不思議なその音は、まるでギャラリーの外から響いてきたようでした。私には、自然の大地の神が村田さんに起こされ、目覚めさせられ、まだ眠たいのだと怒っている、そんな雄叫びのような声に聞こえました。

ウォーオーオーオー、ウォーオーオー…….
シャカシャカシャカシャカシャカ……

会場には、神が発っしているような地響きのような音と、村田さんの手の動きから生み出されるボールペンの音だけが響き渡ります。

ウォー、ウォーオーオーオーオー、オー、イーイーイーイー、オオウィーイーイーイーイー、ウィーイーオウイーイーイーウィー…….

次第に、地響きのような音がまるで二重三重にトーンの違う音が重ねられているように聞こえてきました。私たちを異世界に誘う音楽のように、トーンがどんどん変化していきます。

突然、私は、その音の出どころに気づきました。なんと、その音は、村田さんの体から発せられていたのです!

イー、イーイーイーイーイーーーー、ウンーンーンーンーンー…… イー、イーイーイーイー、ニィーニィーイーイーイーイーーーーーーーーーー……

ギャラリーの外から聞こえる地響きのようだった音は、村田さんから発せられていることに気づいてからは、次第に私たちをとりまくものとして肌にまとわりつくようにその存在感を増していきました。

ボールペンを動かす動きが激しくなり、村田さんの体の筋肉が目一杯使われ、会場の緊迫感はますます高まっていきました。

村田さんはボールペンをさらに取り出し、両手を使ってアクリル板の上に描いていきます。

アクリル板に、ものすごい勢いで、ボールペンの痕跡が残されていきました

村田さんの動きは、どんどん激しくなっていきます。息も荒くなり、体中から汗がほとばしり、同じ空間にいるはずなのに、全く異次元の世界にいらっしゃるようでした。

そんな村田さんの様子を見ながら、私は「描く」という行為は、表現することであり、そして、表現するということは、こんなふうに必死に何かを形にすることなのかと考えていました。

自分と、世界と、画面に一心不乱に向き合っている……

そんな村田さんのひたむきな姿に圧倒されながら、表現する行為のものすごいエネルギーを感じました。

描く勢いはどんどん激しさを増していきました
固いアクリル板が割れるほど、強い力が込められていました

アクリル板の色に込められた意味

今回、作品の素材として選ばれたのは、青と黄色とオレンジ色のものでした。そして、村田さんはオレンジ色のアクリル板にボールペンで描いていました。

青と黄色は、このパフォーマンスの1週間前にロシア軍の侵攻を受けたウクライナの国旗の色です。村田さんはオレンジ色のアクリル板に傷をつけるように描いていました。その行為には、青と黄色のアクリル板を守るという意味も込められていたようです。しかし、アクリル板を傷つける行為は、青と黄色を守ろうとしているのに、傷ついてしまう、まさに、今、私たちの世界で起こっていることを象徴させるパフォーマンスだったのです。

ズタズタになったアクリル板から、その暴力的なまでの力を私たちは感じます。今、世界に起こっていることが、感覚的に目に見えるようにしてしまう村田さんの表現に圧倒されました。

描く行為でもあったパフォーマンスには、平和への祈りも込められていた、それを知って私はさらに村田さんのパフォーマンスに共感しました。

村田さんの作品

会場には以前に制作された作品が展示されていました。これらの作品も今回のパフォーマンスのようにボールペンで制作されたものです。画面に残るボールペンの痕跡と、ところどころ噴出した色彩が織りなす美しい抽象画です。

《catch the colors》2021年 スケッチ板にボールペンとアクリル絵画とジェッソ 

これらの作品は、絵の具が詰められた製図板の上にボールペンで描かれたとのこと。激しく動かされたボールペンの痕跡が板を削ることで板に穴が開き、その穴から絵の具が噴き出すことで彩色されたそうです。

絵としての美しさだけではなく、パフォーマンス時の激しいエネルギーが放出された勢いが感じられる作品です。

こんなにすごい迫力のパフォーマンスやかっこいい作品を制作される村田さんですが、その素顔はとても優しくて穏やかな方です。

神がかったパフォーマンスが終わった後は、とても和やかに作品についてお話してくださいました!

パフォーマンスが終わってほっこりしている村田さん


村田峰紀さん
1979年群馬県生まれ
2005年 多摩美術大学美術学部彫刻学科卒業

展覧会
N/World
Mtk Contemporary Art
2022年3月3日(木)〜4月3日(日)


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