人の「心」を中心にした経営
松下幸之助 一日一話
10月 9日 人を中心とした経営
会社の経営というものは、なんといっても人が中心となって運営されていくものです。組織も大事ですが、それは第二義的に考えられるもので、まず人が中心である、というように考えねばならないと思います。
国の政治などは、政治の組織、機構というものが先にあって、それに当てはまる人が就任されて国政をとりますが、一般にはやはり人を中心に考えなければいけないと思います。組織は人を活かすために適切につくってゆくべきものと、こう考えていいのではないでしょうか。
そしてそのためには、やはり一人ひとりの力、各自の能力というものが非常に重大な問題になってくると思うのです。
https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より
人が中心であるという考え方は、昨今では「デザイン思考」という側面からも注目されています。デザイン思考においては、組織や技術を中心に考えるのではなく、人(ユーザー)を中心にプロダクトのみならず様々な問題解決のデザインをしていきます。具体的には、人を中心にしますので、先ずは人が起点になります。デザイナーが、起点になった人への理解や共感をすることで当事者の立場となり、その人のかかえる問題をきちんと見極めた上で、今度はデザイナーという客観的立場に戻り、問題の構成要素を分析し、問題解決に繋がるように構成要素を再構築(デザイン)します。その際にデザインのプロトタイプをつくりテストをすることで、デザインの有効性を確かめます。デザイン思考を、ざっくりと簡単に説明するとこんな感じになります。
加えて、人(お客様)が中心であるという考え方に関しては、セブンイレブンの生みの親であるセブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文さんも同様の旨の言葉を仰っており、要約しますと「お客様の為ではなく、お客様の立場で考える。お客様の為となると、どうしても会社の都合を押し付けてしまうことになる。」と、常に社員を注意されていたそうです(※参考:鈴木敏文著「働く力を君に」(2016)より)。
更には、伊藤忠商事代表取締役会長CEOである岡藤正広さんは、先月末の日経MJの1面において、自社内に川上から川下までのリソースを保有しながら素材や資源中心に取り扱うことの多い商社として、川上側からの押しつけが強かったことを反省され、これからの時代に適合するために第8カンパニーを新設し、「プロダクトアウトではなく、マーケットイン」の発想による変革を行なっていくと述べていらっしゃいました。これもまた、デザイン思考におけるユーザー中心の発想であり、鈴木敏文さんの仰るお客様の立場で考えるということでもあります。
他方で、人ではなく会社中心の経営をしている企業というのは、未だにゾンビのように多く残っています。会社を中心にしたままですと、「会社というモンスター」になってしまいます。その礎に松下マインドを持つ、サイボウズの青野慶久さんは
『…「会社の方針が」「営業部とはどうも合わないな」などと口にするが、そもそも会社や営業という人はどこにいるのだろうか。いったい誰のことなのだろうか。よくわからないものに名前をつけて考え、現実として起きていることを見失っているのではないか。…』
と著書「会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。」(2018)にて、疑問を提唱されています。
翻って、国の政治レベルでは、その組織や機構において、旧来型の「組織ありき」の考えをベースに、その組織に当てはまる人や組織に合わせられる人が執行する形が未だに色濃く残っています。これは組織の外枠を同じにしているだけであり、必ずしも中心軸を同じくし共有しているとは言えません。一見すると強固な外枠のように見えますが、外枠に僅かなひび割れでも入れば、直ぐに全体が崩壊する恐れが出てしまうほど脆いものです。そのため、ひび割れに繋がるような僅かな情報すら隠すようになってしまいます。中心軸を持たない組織というものは、相関して一人ひとりの思考力や実行力が乏しく、組織としての脆さを生じさせる原因になっているのだと私の目には映ります。
これからの時代においては、「人を中心にした経営」は最低条件となり、それを進化発展させた、「人の心を中心にした経営」が求められていくのではないかと私は考えています。
中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp