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MBAデザイナーnakayanさんがめぐる「粕壁景観再生プロジェクト」

MBAデザイナーnakayanさんのアメブロ:2018年7月12日付

1.景観再生プロジェクトとは?

蔵や老舗店の多い春日部駅東口地区(旧・日光道中「粕壁宿」)の面影を生かし、歴史や当時の時代描写をすることで「市民や来街者が集い、歩きたくなる街」をめざして春日部駅東口商店連合会(市川弘会長、140店加盟)がスタートした景観再生プロジェクト。粕壁宿の歴史や時代風景を再現したシャッターアートが、2016 年1 月現在で34 カ所が完成し、今なお増加中。(※1)


2.粕壁宿とは?

宿駅として成立したのは1616年。古利根川を通じて、江戸と結んだ物資の集散地として栄えた。尚、江戸・日本橋から一日歩き通すと、ちょうど1泊目となる宿場町がこの粕壁であったことから、旅人の多くはここで宿を取ったようである。(※2)


3.シャッターアートマップ 

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photo source by ©2018 nakayan.


4.プロジェクトコンセプト・開始年月

コンセプト: 「デザインとアートが街を変える。」
詳細: 街の魅力の再生は、今や駅前開発や近代施設、大型店の誘致でも、道路の新設・拡幅でも無力。いや、それらはむしろ街の魅力喪失と空洞化を促進しているだけに過ぎない。人が集まるのは、箱物やアクセスの便利さではなく、ワクワクする空間や出来事に出会える「場」としての魅力。つまり、心に響く街づくりが急務であり、街を壊さずにチャームアップできるのは、「デザイン」と「アート」による建物や街並みの「装飾」と「演出」がもっとも有効かつ低コストで実現可能な手法だと考える。デザインとアートの真価が問われる一大プロジェクト。未来に向けて街が発展・進化していくためのとるべき方向性を問うプロジェクトでもある。
開始年月: 2010年5月~現在まで
(※5)


5.粕壁シャッターアートめぐり開始

※以下に掲載の写真は、2015年11月から2016年1月に、nakayanさんが撮影したものです。


▼ 春日部駅東口をスタート。

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▼ ⑤創作惣菜店「Bien(びあん)」さん。
喜多川歌麿の「ビードロを吹く女」のビードロを箸に差し替えて、「上品さ」と「食」をイメージした「食べる女」にアレンジしたそうです。(※3)

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▼ ◯ デザイン会社「絵師と摺り師」

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▼ ⑨昔からカメラ店を営む「クロサワカメラ」さん。
古くから写真館を営業していた老舗店を表現するために、日本にカメラが登場して最初に撮った有名人が坂本龍馬という伝説から、坂本龍馬と当時のカメラを表現したそうです。(※3)

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▼ ㉒ 文化通りにある「上町会館」。
上町のみこしが保管されており、みこしや実際に着用しているハッピの柄などを忠実に表現したそうです。(※3)

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▼ ◯ さか菜や食道さん。「神明神社の酉の市」

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▼ ◯ さか菜や食道さん。「熊手をもつ役者」

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▼ ⑧ 空き店舗。「米問屋の風景」

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▼ ◯ 寿タバコセンターさん。「煙管をくわえる役者」

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▼ 理容室「初代・角太郎から角床と親しまれてきた床屋」

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▼ ⑦ 靴の店「くわばら」さん。
大正時代の女性を描き、袴に編み上げの靴というコーディネートで新鮮なアピールをしたそうです。女性が手にしているのは、当時流行っていた「令女界」という雑誌。(※3)

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▼ ◯ IDC大塚家具の発祥の地に建つ「仲町みこし倉」。
収納されている国内でも珍しい「入母屋造り総四方ちどり屋根」の伝統的な神輿を表現。(※4)

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▼ ⑰ 「春日部消防団第2分団」。
言わずと知れたまといを持つ火消しの姿。(※3)

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▼ ⑥ おしゃれの店「もりいずみ」さん。
江戸時代の文様で「おしゃれ」をイメージしたそうです。(※3)

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▼ ⑫ 日光道中から少し入った旧・停車場通りに位置する「田村ビル」。
東武線「粕壁駅」が開通したころの停車場通りを当時の駅前の写真を元に描いたそうです。(※3)

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▼ ⑱ 老舗の化粧品店「かぶや化粧品店」さん。
資生堂の初期の頃から資生堂化粧品を扱ってきた店。
テーブルの上の化粧品は、大正時代から昭和初期の資生堂の商品を再現したそうです。(※3)

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▼ ㉓ 明治43年創業という「市川寝具」さん。
赤ちゃんをあやして寝かしつける婦人。虎は創業者の虎之助さん。祖先から母、孫へと家系がつながり、それを祖先の虎が見守っている、という意味を込めて表現したそうです。(※3)

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▼ ㉕ 一般の民家「村田邸」さん。
家業が建築業ということで、江戸時代の大工職人の作業風景を描いたそうです。(※3)

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▼ ⑲ 京染の「染のやまとや」さん。
洗い張りをする女たちを描いたそうです。(※3)

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▼ ③煎餅店「栃惣」さん。
建物の木部の部分をべんがら塗料で塗り替え、壁に春日部のシンボルで「藤の花」の絵を描いたそうです。(再塗替え前)(※3)

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▼ ⑮ つけ麺「蝉時雨」さん。
大家さんからの注文。この辺にはかつて脇本陣があったことから、脇本陣(旅の大名が到着し、宿に入った様子)を描いたそうです。(※3)

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▼ ⑮ 「個人指導教育センター」さん。
前出の脇本陣を描いた「蝉時雨」の2階にある個人指導塾。
塾長の実家が偶然にも岐阜県にあるかつての本陣ということで、本陣の玄関を描いたそうです。(※3)

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▼ ㉔ 明治時代から寺子屋に教科書などを納めていたという老舗の「紅雲堂書店」さん。
寺子屋で読み書きを教えている風景を描いたそうです。(※3)

完成時は寺小屋となっていたため、寺子屋へと描き直してもらったそうです(紅雲堂書店さん談)。

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▼ ① 老舗の和菓子店「江戸助」さん。
店名をイメージした役者絵と看板商品の花餅を表現したそうです。(※3)

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▼ ◯ 写真・衣裳レンタル「内藤城」さん

シャッターアート

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▼ ④ 作業着と祭り用品の店「田中屋」さん。
江戸時代のテイストで「祭り」を表現したそうです。(※3)

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▼ ⑩ 華道教室「玉富」さん。
お花を指導する先生の姿と師匠・玉富さんの座右の銘を表したそうです。(※3)

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▼ ⑪ 「大崎生花店」さん。華道教室「玉富」の隣。
江戸時代の花売りの姿「朝顔売り」。(※3)

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▼ ② 老舗の煎餅店「利根川せんべい」さん。
店名通り古利根川をモチーフにしたそうです。(※3)

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▼ ◯ 矢部製麺所さん。「日光道中分間延絵図の粕壁宿と芭蕉」
「紅雲堂」の店主所有の日光道中分間延絵図(復刻版)を元に制作したそうです。芭蕉の句は小渕観音院の句碑にある「ものいえば 唇寒し 秋の風」(はせお) (※3)

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▼ ⑯ 「会田建具センター」さん。
一宮交差点にあり、かつての粕壁宿の入口。
近くには八坂神社(天王様)があり、今の春日部夏祭りはかつて八坂神社の祭礼だったことから、祭りを題材にしたそうです。この地のかつての地名は「新々田」で隣は「大砂」でした。他の「寺町」「中宿」「陣屋」「裏町」も粕壁宿に実在した地名。(※3)

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▼ ◯ 居酒屋「桜を愛でながらお酒をたしなむ女」

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▼ ⑭ 「カネコ薬局」さん。
元禄時代に初代・金子七右ヱ門という人が創業し、現在16代目という老舗中の老舗。当時の看板や家紋の入った提灯などの家宝を絵に取り入れたそうです。(※3)

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▼ ㉖ 公園橋脇の公衆トイレ。
近くに、船着き場や粕壁宿の目印だった碇神社のイヌグスの木など、古利根川周辺の風景をイメージして壁画にしたそうです。(※3)

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6.プロジェクトの検証(2018年7月時点)

2010年5月から始まったこの粕壁景観再生プロジェクトですが、約8年が経過した現時点において、このプロジェクトは当初のコンセプトに対してどれほどの結果を齎しているのかということを、僭越ながらまちづくりについての多少の知見を有する一市民としての客観的立場から検証してみたいと思います。

街の新たなブランディングイメージに寄与
街に約34ヶ所のシャッターアート、21件の映画看板など同一製作者によるレトロなデザインが存在することで、ある種の空間的統一感は生み出すことが出来ている。地域の絆という実際に目にすることが出来ない繋がりも、視覚的に認識しやすくなったと言える。街のブランディングイメージづくりには、寄与している側面が大きいと言える。

表面的デザインの限界
今回の粕壁景観再生プロジェクトは、不足する都市機能や付加価値を生み出す都市機能をハード面から改善するアプローチではなく、アートやデザインによって街を壊さずにチャームアップするというソフト面からアプローチする試みである。そのため、ハード面からのアプローチと比較した際には、低コストでのアプローチが可能であったが故に参入障壁が低くなり、各商店のシャッターアート導入を容易にしたと言える。ハードからのアプローチの際には莫大なコストを費やしたにも関わらず結果がでないというリスクを伴うが、今回のプロジェクトではこのリスクは避けることができたといえる。しかしながら、費用対効果は費やしたコストに比例した結果でしかなく、期待を上回る大きなものであるとは言えない。

市場ニーズの把握不足と機能的価値の欠落
市場ニーズについては、大別すると「シャッターアートを導入する店舗側のニーズ」と「市民や来街者のニーズ」の2つに分けることが可能である。先ず、「シャッターアートを導入する店舗側のニーズ」に関しては、希薄化する地域の絆を密にしたいというニーズは満たすことができているが、商店を営む者にとってはボランティア活動の一貫ではなく、あくまでも費やした時間とコストが売上に反映される結果が欲しい訳であり、このニーズを満たすことは出来ていないため、導入をためらう商店が多いように思われる。たとえ費やすコストが大きくなろうとも、一定期間を経て損益分岐点を超える結果が出るならば、導入する商店は増えるだろう。

次に、「市民や来街者のニーズ」に関しては、一人十色のニーズへと大きく変貌を呈しいるにも関わらず、今回の粕壁景観再生プロジェクトはかつての十人一色、或いは十人十色のニーズを満たす旧来型のアプローチでしかなく、街を限られた数の色に染めてしまうため、多様化する市民や来街者の求めるニーズを満たすものにはなっていない。消費者ニーズに敏感な商店経営者が導入を躊躇うのはこのためでもあると考えられる。
更には、機能的価値の大きな欠落。商店というものは商品やサービスの良し悪しよりも、店舗にある活気や勢い、或いは笑顔がお客様を集客する最も大きな要因になるため、本来ならばシャッターアートを商店の活気や勢いを生み出す経営戦略的機能の一つとして活用すべきである。しかし、現在導入済みのシャッターアートがその機能を果たすのは、人通りもまばらになり人目に付きづらくなる朝晩の営業時間外でしかない。つまりは、商店にとっては一定の話題性を生み出したのみで実質的な集客に役立っていない。現時点において、活用すべきシャッターアートの機能的役割は、シャッターを締め切ったままの既に活気の失われた空き店舗などに活気を齎し、現在でも営業を継続している商店の活気や勢いを、地域としてサポートすることが本来の機能的役割であると言える。
加えて、シャッターアートのデザイン的機能に関しては、看板というものは購買行動モデルであるAIDMAやAISASにおける、AIの意味合いが大きいと言える。AIとは、Attention(存在を知ってもらう)、Interest(興味を持ってもらう)のことであり、このAIを重視するのであれば、一度描いたら終わりではなく、銭湯の富士山画のように、もっと頻繁に書き換えや上書きを行い消費者を飽きさせない試みが必要であると言える。
他方で、シャッターアートのデザイン的価値に関しては、地域にとっての親しみやすさや温かみ、明るさは生み出すが、長い歴史が有する品格や格式にはそぐわず、それらを高める役割は残念ながら果たさないと言える。


7.MBAデザイナーnakayanさんの提言

「街をブランディングする3色のカラーを推奨する」
2010年の5月からこれまで行われてきた粕壁宿景観再生プロジェクトによって、0から10の新たなまちづくりの基礎の段階は創られたと言えます。今後は、これまでの基礎をベースに10を100に進化・発展させ「市民や来街者が集い、歩きたくなる街」かつ「実質的な経済効果という結果を生むまちづくり」への行動が不可欠であると言えます。機能的価値と情緒的価値という二者択一のいずれかに偏重することなく、機能的価値と情緒的価値の双方の価値を高めることになる「統合的価値」を生み出すまちづくりが必要となります。

これからの10を100に進化・発展させる過程においては、これまでの0から10で行ってきた行動をそのまま継続しているだけでは足りません。

シャッターアートを通したまちづくりにとってのKFS(Key Factor for Success)は、シャッターに描かれるアートではなく、そこに使われる色が重要となります。例えば、まちづくりのブランディングにおいて成功している、京都の町並みや、浅草の町並みを思い浮かべてみてください。具体的なアートではなく、統一された色が思い浮かばないでしょうか?特に京都などは、景観条例によりカラーリングが統一されているにも関わらず、それぞれの個性ある商店が生み出す、一人十色の消費者ニーズを満たすワクワク感や期待感は失われていません。つまりは、潜在的な消費者ニーズを刺激するために商店が持つべき個性とは、外観を彩るようなアートではないということです。むしろ、外観はシンプルなカラーで統一し、内部に個性ある彩りがある方が、活気や勢いに繋がりやすいと言えます。

空き店舗や既に閉店した店舗にこそ、活気を齎すことになるシャッターアートを導入すべきであると前述しましたが、コストをかけたくないオーナーでも導入しやすく、まちづくりに参加やすい仕組みをつくることが必要となります。例えば、オーナーたちにとっては、手軽に購入できる市販の塗料で、空いた時間に掃除するような感覚で、自分たちの力で手軽に塗れるならば参加への障壁が一挙に下がります。ならば、オーナーたちのために、基本となる色だけ指定してあげれば良いのではないでしょうか。オーナーたちも、かつてのように自分たちもまちづくりに貢献したい気持ちはあるものの、商店運営からは既に離れ、費用的な側面からも積極的に貢献できないことを心苦しく思っていることでしょう。

最後に、これまでに街をつくってきた人たちやこれから街をつくっていく人たちが、主体的に負担なくまちづくりに参加できる仕組みづくりこそが必要であると私は考えます。

<粕壁宿景観再生プロジェクト推奨カラー色見本の参考例>

名称未設定-1



8.<参考資料>

※1.粕壁宿景観再生プロジェクト! - 春日部商工会議所http://www.kasukabe-cci.or.jp/soudanjo/shutter.pdf

※2.旧街道宿場町の現状と街なか再生事例について」平成25年3月 公益社団法人 全国市街地再開発協会 市街地再開発研究所http://www.uraja.or.jp/town/research/doc/kyukaidou.pdf

※3.「カバ社長の日記 caba note」 ビッグアートの社長日記 (粕壁宿関連)https://blog.goo.ne.jp/caba_note/s/%E7%B2%95%E5%A3%81%E5%AE%BF

※4.仲町の神輿を忠実に再現したシャッタアート|仲町みこし倉http://museum.hateblo.jp/entry/2018/03/02/171950

※5.「カバ社長の日記 caba note」 ビッグアートの社長日記 「デザイン&アートプロジェクト「デザートかすかべ」」https://blog.goo.ne.jp/caba_note/e/b1347c821887453306db86dbcebcf00e

※6.「春日部市のシャッターアート」 有限会社ビッグアート https://www.bigart.co.jp/lp/shutter

※7.埼玉県NPO情報ステーション NPOコバトンびんhttp://www.saitamaken-npo.net/html/report/h23npo_houmon2/h23houmon_kasukabeart.html

※8.外装仕上用塗料標準色 ロックペイント株式会社http://www2.rockpaint.co.jp/home_j/products/architecture/PDF/0405_standard.pdf


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp


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